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「…私がどうしてこんなことを、あなたに話したと思う?」
ユキヤとは違う小さな手で涙をぬぐいながら、彼女はまた唇のはじっこを持ち上げた。
私は首を振った。わからないわけじゃない。でも、何も思いつかない。
衝撃的な真実を前にして思考が停止してしまっているようだ。
「…ユキヤにも、あなたにも、幸せになって欲しいからよ」
そう言うと、彼女はバッグから大き目のタオルハンカチを取り出して私の顔にかけてくれた。
それからしばらくは無言で、車を発進させてドライブをする。
濃いピンク色の薔薇と黒い模様を描いたタオルハンカチから、あげは姉さんのコロンの香りがした。お店でおしぼりから感じた香りと似ている。薔薇の凜とした清々しさに、心が洗われる気がしてくる。
名前もどこの誰かもわからない男に乱暴されて、ユキヤが生まれた。
まさかそんな。
そんなことが。
苦しくて、息が。
涙が止まらない。
ユキヤ。
まさか、そんなことがあったなんて。
それからしばらくは、ただ泣くしかできない私がいた。
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