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少しの着替えとありったけのお金を握りしめて、私が頼った相手はやっぱりユキヤだった。
『こうなるって思ってた』
彼は困ったような嬉しそうな顔をして、私の荷物を持って部屋に招き入れた。
ユキヤママが入院中で大変な時だったのに、彼は鍵をくれて。
『大家さんが真面目な人だから、長くは居させてやれないんだ。でも、待ってて。ちゃんとお前の部屋を作ってやるから』
あの瞬間の、ユキヤの顔が浮かぶ。
『今度こそお前が安心できる場所、作ろう』
嬉しかった。だけど、喜ぶ資格を失った私には、その言葉にどんな意味を込めていたのかを考えることは許されていない気がした。
涙が溢れる。泣いたって何も始まらないと知っていても、溢れる涙を止める方法を知らない。
ただ悲しいんじゃない。寂しいよ。苦しくて、辛くて、情けないんだよ。
こんな私に、優しくなんかしないで。
◇◇◇
力では敵わない。抑え込まれて、好きなようにされて、舌を噛み切って死ねるほどの覚悟もなくて。
寝ているところをあんな風に襲われて、それがユキヤだったらどんなに良かっただろうって何度も考えた。ユキヤだと思ったから、体を開いた。
それなのに。
油断していた。バカだった。
自分には関係ないと思い込んでいて、警戒すらしていなかった。
だから誰からも相手にされない。被害を訴えても、自分で招き入れたのだからと一蹴されてしまう。
結局、ユキヤだけが私のそばに居続けている。
あんな目に遭って男の人が怖いはずなのに、ユキヤだけは違う。
なにが違うんだろう。
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