男の人が怖い

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   ◇◇◇  白い特殊スーツを着て、マスクをして髪を覆うほどの白いキャップを被り、エア洗浄の部屋で埃や汚れを除去してから、作業室に入る。この格好をした人達が大勢並んでいるのは、食品加工工場。殆どが女性で、年齢も様々。  私の持ち場はしめじを指定サイズに切り分けて、トレーに乗せるところ。ひたすら同じ作業の繰り返し。どんどん流れてくるしめじを切り分けて、軽量して、トレーに乗せる。  最初はとても無理だった。でも、音楽のリズムに合わせると良いというアドバイスを貰って、頭の中でハトポッポをひたすら繰り返すようになってからは、順調。  目の前の作業に没頭すれば、いやなこと全部忘れられる。家に引き籠って布団被って泣いていた頃は、こんな素晴らしい方法があるなんて夢にも思わなかった。  ある日、きっかけをくれたのはユキヤのママで、別部門だけど今も同じ工場のどこかで働いている。  ユキヤのママと私のママは、同級生だったそうだ。でも、そんなに仲良しというほどではなかったらしい。うちのママは良く言えば社交的だけど、実のところ見栄っ張りで自己中心的だったりする。ユキヤのママは気さくでさっぱりとした性格で、私としてはそっちの方が付き合い安い。  実の母娘だからと言って、お互いに解り合えるわけじゃない。潔癖で世間体命のママは、私がキズモノになってからは特に干渉すらして来なくなった。ちなみにパパは離婚して家を出て行ってしまっている。どこかでのほほんと暮らしているのかどうかも、知らない。  私は高校を中退したので一般就職が難しい。履歴書に書ける資格も特技もない。だから、しめじを切り分けるだけの流れ作業でも、自分を養うことが出来ているのだから、ありがたい。  この仕事は立ち仕事だし、同じ姿勢で俯くから肩も背中も腰にもくる。二十歳がいくら若いと言われても、足腰をちゃんとほぐしておかないと疲労度が違う。休憩の度に、誰の邪魔にもならない休憩室のすみっこでストレッチ体操をする。  特殊スーツの下で汗をかいて、下着まで濡れてしまった。温度と湿度を管理された部屋だけどわりと涼しいのに、更衣室で着替えをするたびに自分の汗の量に毎回驚いている。
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