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トモダチ以上にはなれない
顔に熱いタオルが乗せられた。驚いて飛び上がると、あげは姉さんの声が降ってくる。
「横になってなさい。アルコール受け付けない人って本当にいるのよね。ごめんね、気付いてあげられなくって」
「……」
嘔吐して、脱力している私は声も出せずに耳を傾ける。
気付いてあげられなくて謝られるなんて、返って申し訳なく思う。
「少しずつ、水分を摂らないとね。温いんだけど、白湯を用意してるの」
私はわずかに残った力で、うんと頷いた。
「ふふっ…。ちっちゃな子みたいね、ミユちゃんは」
あげは姉さんの声が、遠くなった。蒸しタオルのはじっこを持ち上げると、薄暗いけれど生活の匂いがする部屋に自分がいることを確認した。ここはお店の奥らしい。
壁の向こう側に何人かの人の声が聞こえる。深呼吸を何度かしてみてから、ゆっくりと起き上がった。吐き気はないけど頭痛がする。たった三口でこうも拒絶反応が出るのだから、私は本当にアルコールを受け付けられない体なのだ。
今までは、カクテルの缶ジュースを飲もうものなら、ユキヤがそれを取り上げた。『まだガキには早い』とかなんとか言って…。
ガチャガチャ
突然、背後の方から大きな音がして、飛び上がった。振り向くと、暖簾の向こうにあるらしきドアが開いて、夜風がそよいでくる。大きな白い手が暖簾をかき上げた。
「……ユキヤ」
白い顔を黄色に照らす照明の紐に、手を伸ばしたユキヤは私が見えないようで、あらぬ方向を見ながら言った。
「っとに、驚かせんな。酒なんか飲まされやがって」
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