女にさえ生まれなければ

1/3
138人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ

女にさえ生まれなければ

 仕事は単調過ぎるぐらい単調。でも、これぐらいのほうが今の私には丁度いい。今は食べていくのが精いっぱいだけど、いつかは自分ならではの仕事を見つけて、もっと充実したいと思う。  とはいえ、自分ならではの仕事なんてそう簡単には見つからない。  好きを仕事にできる人は良い。私のような後手後手の人生では、思うような選択さえできない。  時々、辛くなる。報われない日々に慣れて、このままド底辺で人生が終わって行くことに何の抵抗も感じなくなっていく気がしてくる。そうなると、ブルーに酔いしれて明日なんか永遠に来なくて良いのに、こんな誰にでもできる仕事なんかやめてやるのに、とか本気で思ってしまう日が月に一度やって来る。  お腹が痛いし、自分の唾から血のような匂いを感じたら、もうそれは始まっている。  生理だ。  仕事を終えて家に帰るだけなのに、軽いめまいが何度も襲ってくる。途中のコンビニでディスカウントシールが貼られたお弁当と、鉄分が入ったヨーグルトドリンクを買った。  本当は雑誌でも買いたいところだけど、そんな贅沢は許されない。お財布の中はいつだってシビア。夏服を買ったばかりで、来月まで娯楽品はお預け。立ち読みしたいけど今日はもう体力の限界だ。早くお風呂に入ってしまいたい。  バスに乗りしばらく揺られながら、暮れなずむ街並みを眺めた。  明りの灯った家に帰れる人達のことが、羨ましいなと考えていた。  お風呂から上がると、薄暗い部屋のテーブルの上で充電しておいたスマホの通知音が鳴った。髪を拭きながらしゃがんで、メッセージチェックをする。ユキヤからだ。 【今夜そっちで寝たいんだけど】  手狭ながら部屋が二つあるアパートだ。ユキヤの部屋はフローリングで、布団セットと大きくて古いカセットラジカセがある。細く開いた引き戸の奥は真っ暗で、なにも見えない。 【いいんじゃない?】  なにも考えなければ、なにも心配いらない。自分にそう言い聞かせながら、送信した。なぜか、心臓の音が大きくなる。 【いまから行く】  既読になったと同時に、返信が入った。  いつものことなのに、嬉しくなる。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!