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「梅雨ですか?」
その女の人は考えこむ。
「好きですよ、しっとりしてて静かだし」
しっとりして、静か。
梅雨にはそんな言葉も、似合うのか。
「それに、好きな傘を持てるし」
薄紫の傘を、指差して笑った。
「あなたは?」
「えっ」
「梅雨、好きですか?」
自分のだめな性格を強調しているようで、好きになれなかった梅雨。だけど、薄紫の傘の彼女が、梅雨の妖精が好きだと言うなら。
「好きです、僕も。梅雨」
梅雨みたいな自分のことも。
もしかしたら工夫次第で好きになれるかもしれない。じめじめだけじゃなく、しっとり静かっていういい面もあるかもしれない。
「それじゃあ、私はこれで」
彼女は店を出て行く。
窓から、彼女が薄紫の傘を差して、楽しそうに大雨の中を歩いていくのを見送った。
やっぱり彼女は、梅雨の妖精。
僕にはそう見えた。
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