梅雨生まれの僕と梅雨の妖精

7/7
前へ
/7ページ
次へ
「梅雨ですか?」 その女の人は考えこむ。 「好きですよ、しっとりしてて静かだし」 しっとりして、静か。 梅雨にはそんな言葉も、似合うのか。 「それに、好きな傘を持てるし」 薄紫の傘を、指差して笑った。 「あなたは?」 「えっ」 「梅雨、好きですか?」 自分のだめな性格を強調しているようで、好きになれなかった梅雨。だけど、薄紫の傘の彼女が、梅雨の妖精が好きだと言うなら。 「好きです、僕も。梅雨」 梅雨みたいな自分のことも。 もしかしたら工夫次第で好きになれるかもしれない。じめじめだけじゃなく、しっとり静かっていういい面もあるかもしれない。 「それじゃあ、私はこれで」 彼女は店を出て行く。 窓から、彼女が薄紫の傘を差して、楽しそうに大雨の中を歩いていくのを見送った。 やっぱり彼女は、梅雨の妖精。 僕にはそう見えた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加