梅雨生まれの僕と梅雨の妖精

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うつうつとした気分で今日も通勤する。そろそろ限界かもしれない。 そんな日々に、バスの中であの爽やかな女性を見かけるのがささやかな楽しみになった。梅雨のじめじめの中でも、涼しげなあの人を見ると、少しは気分が落ち着くような気がする。僕は彼女のことをひそかに、梅雨の妖精と呼ぶことにした。 梅雨にしては珍しく、数日晴れが続いた。梅雨の妖精は、晴れの日には現れない。 雨の日だけバスを利用しているようだった。あんなに不快だった雨の日のバスを、いつしか楽しみにしている自分がいた。 待ちに待った雨の日。土砂降りの中バスに乗りこむと、やはりあの人がいた。みんな雨に濡れ、車内は湿気でじとっとしている。そんな中で梅雨の妖精は、一人涼しげだ。そして今日も薄紫の傘は濡れていない。 僕が降りる一つ手前のバス停で、彼女は降りた。思わず僕もそこで降りる。会社に遅刻するかもしれない、でも、そんなことどうでもいいことに思えた。もうすぐ梅雨は終わる。雨が降らなくなったら、もう妖精とは会えないかもしれない。 彼女は傘を差して、バス停から数歩先のコーヒーチェーン店に入って行った。 僕も店に入ろうとして、はっと立ち止まった。こんなことをして何になる? 「梅雨生まれだから、じめじめしてるんじゃない」 姉の言葉が蘇る。 「うじうじしてるからだろ!」 上司の言葉も。 知らない女性を追いかけるなんて、それこそじめじめ、うじうじじゃないか。 といっても、バスはもう行ってしまった。雨はますます強くなる。 朝のコーヒーを飲むだけだ、そう自分に言い聞かせ、店に入ることにした。
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