梅雨生まれの僕と梅雨の妖精

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傘の水滴を払って、折り畳んでから店が用意した細長いビニールに傘を入れた。 レジに並びながら、さりげなく店内を伺う。 あの女性は……。いた、窓側の1人席に座っている。 そのとき僕は目を疑った。 あの薄紫の傘は、やっぱり濡れていなかったからだ。水滴を払っただけとは思えないくらい乾いているし、僕のようにビニールにも入れていない。 さっき傘を差していたはずなのに。 バスの中でも不思議に思っていたし、それで彼女に興味を持ったのは事実だ。 だけど、駅からバス停まで直結だとか、雨に濡れずに乗れるのだろうと頭のどこかでは、現実的に考えていた。 でも。この目でさっき、彼女が傘を差しているのを見たんだ。 こんなに大雨なのに、濡れずに、涼しげ。もしかして、幽霊か。それとも本当に、梅雨の妖精か。 僕はコーヒーを持ち、彼女の隣の席に座った。彼女は文庫本を読んでいるようだ。横顔も凛として綺麗だった。 「あっ」 見惚れるあまり、テーブルに立てかけた自分の傘が、彼女の方に倒れてしまった。
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