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「すみませんっ」
慌てて拾おうとすると、彼女はかがんで傘を手渡してくれた。
「どうぞ」
今しかない、と頭のどこかで声がした。
「あのっ」
「はい?」
「ありがとうございます、あの。傘のせいで濡れませんでしたか」
「ええ、大丈夫です」
彼女は微笑み、文庫本に再度目を落とそうとした。
「あのっ、あなたの傘、どうして濡れていないんですか」
彼女は目を丸くする。我ながらおかしな質問だった。でももう口にした言葉は戻せない。
数秒の沈黙のあと、彼女はふふっと笑った。
「よく気づきましたね」
まさかまさか。僕の心臓は早鐘を打つ。
やっぱり彼女は妖精なのか。そんなバカな。
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