梅雨生まれの僕と梅雨の妖精

5/7
前へ
/7ページ
次へ
「すみませんっ」 慌てて拾おうとすると、彼女はかがんで傘を手渡してくれた。 「どうぞ」 今しかない、と頭のどこかで声がした。 「あのっ」 「はい?」 「ありがとうございます、あの。傘のせいで濡れませんでしたか」 「ええ、大丈夫です」 彼女は微笑み、文庫本に再度目を落とそうとした。 「あのっ、あなたの傘、どうして濡れていないんですか」 彼女は目を丸くする。我ながらおかしな質問だった。でももう口にした言葉は戻せない。 数秒の沈黙のあと、彼女はふふっと笑った。 「よく気づきましたね」 まさかまさか。僕の心臓は早鐘を打つ。 やっぱり彼女は妖精なのか。そんなバカな。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加