梅雨生まれの僕と梅雨の妖精

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雨の日のバスは普段より混み合って、不快指数がアップする。 隣の男の傘が脚に当たり、ズボンがべちゃりと濡れた。しっかりシミになっている。 傘ちゃんと畳んどいてくれよ。今日は朝一番に、やっととれたアポイント先に営業訪問だっていうのに。ついてない。 だけど注意する勇気もない。 ため息をつきそうになるのを堪えて、気分を紛らわせようとバスの中を見渡した。 僕が立っているところより、少し前に涼しげな女の人が立っているのに気がついた。白いブラウスにブルーのスカート。服装の清涼感はもちろん素敵だ。 だけど、僕が一番惹かれた点は、その人が手にする薄紫の傘がきちんと畳まれていることだった。まるで、今さっきまでデパートに並べられていた商品のように折り目正しくきっちりと。そして、不思議なことにその傘は濡れていなかった。
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