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第一話:霊 瑞香
一
麻布十番は一本松の三叉路、江戸初期には『首吊塚』とも呼ばれていた。
なぜ首吊塚と呼ばれるようになったかには諸説あるが、その一つに、関ヶ原の合戦で送られてきた首を家康が検分して埋めたからとも言われている。
が、しかし。
実際のところ本当は何があったのか、太郎にそれとなく聞いてみても、彼は口を薄く開けて笑うだけで教える気はさらさら無いように見える。その目はまったく笑っていなかった。
「麻布」とは室町時代からあった町で、民家のほとんどは茅葺が主流、荷を引くものといえば牛車、その牛車で米俵を運んでいるのどかなところであった。
明暦の大火以降に街が整備され武家屋敷が建つようになった頃から、懐かしい田舎町風景は一部のみぞとなり、おハイソな街へと変貌を遂げてしまったのである。現在ではその頃の面影はないに等しい。
そんなところに、夜中の十二時を過ぎてから、闇に紛れるようにひっそりと現れるこぢんまりとした一軒の古い民家があった。
背の高い建物の影になる位置に、夜闇に紛れ込み、瞬きを一つしているうちに、ちょっと他に気を取られているうちに、六畳一間程度しかないそれはそれは小さな茅葺屋根の民家が、ふうっと闇夜の中に現れるのである。
しかし、この民家に居座っているものは、人ではない。
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