39人が本棚に入れています
本棚に追加
「おめえは言いたい放題言いくさってからに。あのな、俺はな」
侍がたまこの仕掛けた罠に簡単にはまり、口を開きかけたのと同時に、
「お。侍さんの話を聞きたいところだけどそろそろ時間になったみたいだぜい。続きはあとにしな」
太郎が割り込み話を遮った。巨大な積乱雲がゆっくり太陽を隠すように部屋がすうっと暗く冷たくなる。
たまこも太郎に「いいところだったのに。じゃ、後でちゃんと教えてくださいね。というか、ちゃんと思い出してくださいね」と言い、本当に残念そうにノートを閉じて侍の方にちらりと視線をやる。
「あ、本当に忘れてたのバレてたか」
侍は己が今のところ思い出せないだけで、話の腰を折りつつ記憶を辿ろうとしていた。ということがたまこにバレていることが知れると、頭をかきつつ己の席に座り直して背筋を一つ伸ばす。
昭子も気だるそうに身体をくねらせ、背筋を正した。
「たまこちゃんは留守番頼むね」
太郎がたまこの頭を撫でる。
何か言いたそうな困った顔をしてたまこは席を立ち、太郎の後ろへノートを抱えて小走りに移動した。
たまこが座っていた席がぽっかりと空いた。
そこに太郎が火のついた蝋燭を置く。
「じゃ、始めるぜい」
太郎が蝋燭の火をふうっと吹き消した。
最初のコメントを投稿しよう!