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太郎は、長めの金髪に筋の通った鼻、切れ長の目、目の周りを一周囲うように黒く縁取りされている。見た目、少し怖い。
ぴんと背筋の伸びた立ち姿に流行りのデニムの着物がよく似合っていた。どういうわけか足元はスニーカーという不自然さには首を傾げるところである。しかし本人は全く気にしていない。
「それで、今日は誰の話を聞きたいんだい、たまちゃん」
鈴の音のような耳心地の良い声が侍が座った隣から聞こえた。そのまた隣には「たまこ」と呼ばれた年の頃は十前後のおかっぱ頭の少女が分厚いノートを広げて鉛筆を持って待ち構えていた。
太郎と侍が話しているうちに、どこからともなく二人は現れて、気付いたときにはこたつに入っていたのだ。部屋の中もいくばくか明るくなっている。
「昭子(しょうこ)さん。今日は侍さんの話を聞かせてくれる約束をした日ですよ。侍さんがどうしてここにいるようになったのか、教えてくれる日。いっつも話の途中ではぐらかすから最後まで聞けてないもん。今日こそは聞きたい!」
昭子と呼ばれたのは、先ほどの鈴の音の声の主で、紅色の振袖の打掛にお垂髪(おすべらかし)のよく似合う妖艶な雰囲気に香の香りをふわりと漂わせた二十に差し掛かろうかという頃合いの女子(おなご)だ。
肌は新しく舞う輝いている雪のように真っ白くてとても冷たい。身体をくねらせ、太郎にいつものように、「あたしにはお酒をちょうだいね」と台所の奥に置いてある酒の瓶を指さした。
「はいはい。いつものですね。ちょいとお待ちを」
ちょこんと頭を下げた太郎は、侍の前にいつものメロンソーダを、昭子には日本酒を、たまこにはオレンジジュースをてきぱきと出した。
各々飲み物を手に取り一口飲むと、頼んでもいないのにおでんの皿がそれぞれの前に置かれる。
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