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「君の番はもう少しあとだったのに、余計なことをするから予定が狂っちゃったじゃないか」
にたついた司の目は、瑞香の感じる恐怖を楽しんでいるように見えた。
「あの人は、小屋にいるのは、誰なの」
恐怖に体も声も震えている。でも、あの人が誰なのか知りたかった。助けるといって鍵を取りに来た。小屋の中の人は待っている。助けてくれると思って待っている。
まだ逃げるチャンスはあるのだ。話を伸ばせたら逃げられる隙ができるかもしれない。うまく逃げられたら警察に駆け込もう。
「これから自分が死ぬって時に見たこともない女の心配?」
「女の人なの? なんで? なんで殺したの。いつからいるの」
「まだ死んでないんでしょう? 君は声が聞こえると言ったじゃない。生きてるんでしょう? あの小屋の中でとうに朽ち果てたと思ってたけど、やはり女性の生命力は強いな。いつから? 二、三週間くらい前からじゃないかな。どうせ殺すんだ。だから詳しいことなんて覚えてないよ。睡眠薬入りの飲み物を飲んで君がすやすや夢の中にいる間にやったことさ」
「私に睡眠薬、飲ませたの?」
「気付かなかっただろう? これで最後なんだから教えてあげるよ。睡眠薬を飲ませたのは一回だけじゃないよ」
自分の知らぬ間に睡眠薬を飲まされていたなんて。それが現実に起こったのだ。
恐怖と怒りと悲しみ、いくつもおかしな点があったのに見て見ぬふりをして誤魔化した己を疎ましく感じた。そんな気持ちが瑞香の身体を熱くする。
許せない。
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