第一話:霊 瑞香

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 例えば、死体の解体用に愛用していたノコギリ、肉切り包丁、拘束器具等々殺しに使った道具が庭の小屋の中に隠した箱の中にしまったままひっそりと置き捨てられている。  家族の留守をみてはたまに手に取り眺めて、血で変色した刃に頬ずりをしたものだ。  それに、獲物を縛った縄や猿轡。そうだ、一番見られてはならない箱があった。  箱の中には被害者たちの着ていた血まみれの服が当時のまま入っている。それもたまに気が向いたときに自分に身につけてみたりしていたのだ。  これを見られたら自分はどう思われるであろうか。  変人呼ばわりされるのは間違いない。変人で済めばいいがそうはいくまい。いってもらっては困る。裏切られたと絶望し落胆するだろう。果たしてそれは憎しみに変わるだろうか。行きどころのない怒りをどこにぶつける? 己の体を痛めつけるか? それとも関係のない人にぶつけるか。人を傷つける楽しみがめばえるのか。そしてそれは狂喜に変わるだろうか。  見たい。人の変わる様を見ていたい。どんな人の中にもある残酷さをまざまざと思いしらせたい。  そんなことを考えると楽しくなって仕方がない。意地汚く笑った口元、荒れた薄い唇の間から黄色い歯が漏れた。 「なんて楽しいことが起こるのか。ああ、俺はその状況を楽しみたい」  家族は遅かれ早かれ畑を掘り返し、たくさんの骨を見つけるかもしれない。  きっと家の周りの土という土を掘り返すことになる。
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