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「死体だけじゃあうまくは育たないでしょうけど、こいつは畑仕事を趣味にしていたってんだから、そこは知恵を絞ったんでしょ」
太郎が影から月明かりに照らされてゆっくりとその姿を現したとき、昭子も侍も太郎の横に並んで、顔に笑みを浮かべて瑞香と司の方を向いていた。
この男は結婚して家族も持っている。瑞香のあとにそんな何人もは殺せないはず。瑞香とあと一体か二体くらいだろうと昭子が推理する。
太郎は顎をさすりながら周りを見回していく。
奥の小屋、土が盛り上がっている畑、この畑は広くはない。いっても田舎の個人宅の裏に作ったものだ。家庭菜園に毛が生えた程度である。
「四人だな」
太郎が己の口を左右に大きく引き裂いて笑った。
「四人だ」
自信たっぷりに顎を上げてみせた。
「あらそうなのかい、太郎ちゃんがそういうなら確実だわね」
瑞香の前に殺された人たちがどこに埋まってるのかと聞こうとしたところで空気に怒りが帯び始めた。
「お。早いな。今回はもう来るみたいだぜ。毎回出てくる時間が違うからこっちとしても予定が立たねえわな」
太郎が可笑しそうに空を見上げる。
昭子と侍も空を見上げ「あら、本当だ。今回はずいぶんと早いねえ」などと呑気なことを漏らしていた。
「こいつはしばらく泳がす事にしたんでね。例のあの時が来るまでわな」
「へえ、そうかい。太郎、おまえさん、そんなんで我慢できるのかい? ああそうか、人間がよくやる好きなご馳走は最後に取っておくってやつだな」
太郎は舌なめずりをして、「我慢しますさ。そうしたら最後にとびきりいいものに仕上がる。今じゃなく、そのときを待ったほうが美味く仕上がるってもんさ」嬉しいとばかりにぶるりと身体を震わせた。
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