嘘と言う名の日常

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 退屈な授業を二人で終えた放課後。 「ゆうくん、サークル行こ!みんなを紹介するから」  すかさず、彼の手を引っ張った。 「お、お前もうそんなに大学生活満喫してんの?羨ましい……てか引っ張んなって……」  この人の照れ具合が楽しんだ。 私は、お構い無しに走る事にした。 「お、おい待てって!」  けして言えないけど……みんなも待ってる。 *  *  *  *  * 「ちーっす!新入部員連れて来ました!」   私は元気に扉を開けた。 みんながゆうくんを見て、にやけるのをがまんする。 予想だとこうだったんだけど……。  見知らぬ女の子がいる、髪の毛をアップで大きくお団子にした小柄な女の子がこちらに振り返った。 誰がみても可愛い女の子。 「はじめまして!」 くりっとした目で駆けてくる。 「私、るなって言うの。あなた同じ一年生でしょ!よろしくね」 「よ、よろしく。私はゆかってゆうの」   近いなこの娘……あはっと愛想笑いになっちゃったよ。 次にこの娘はゆうくんの手を握った。 「よろしくね」  よろしくー、と言いながら彼は緩み切った笑顔を見せる。  デレデレするな!と、隠れてゆうくんのお尻つねった。 また変顔をしている。 「よろしく祐司です」変顔のまま、もう一度挨拶を繰り返した。  先輩達が、帰って来たゆうくんと話したいのか、そわそわしているのがわかったので…… 「ゆうくん!ほら先輩達にも!」 「あ、すみません、はじめまして祐司といいます。ゆかさんとは幼馴染なものでして……」   緊張しすぎ!私、にやけちゃうよ。先輩達なんて笑うの堪えるの必死だよ。   部長の海乃先輩が立ち上がった。 「祐司くん歓迎するよ!るなちゃんもね!さて、これで先に入っていた健治くんも合わせて定員になった事だし新歓を行いたいと思います」  健治くんとはスラッとした物静かそうな男の子。三年の女子先輩に可愛がられている。  この子も私達の事情を知っていた。  部長の話は続く。 「今週やりたいと思うのですが……」  そして、みんな今日が一番暇だったので今日に決まった。  場所は……、 「やっき肉だ~!」 *  *  *  *  *  急ではあったが部長の行きつけの焼肉屋の予約がとれ、学校からみんなで直行してきたところ。   座敷に通され、先ずは部長から一言。 「みんな今日は無礼講で行って欲しいわけなんだが……一つだけ注意点が……三年の吉田くん!」  部長が指差したのは少し仏頂面の吉田先輩。この人は雰囲気や行動が面白い。 「あ、はい」 ニヤニヤしながら答えた。 「野郎ならいいだろうとか言って一年生の飲み物に酒をもらないこと!彼らはまだ未成年ですからね!」 「あ、はい」 ニヤニヤしている。 「祐司くんと健治くんも気をつけて!」 「「わかりました」」   こうして、楽しい歓迎会が始まった。  面白いのが吉田先輩を入れた三年生男の子三人組、私が本当は二年だから一つ上の先輩。  去年も面白かった。なぜかこの人達は横一列で座る。去年もそう。  上機嫌になりだすとコントが始まったり肩組んで踊り出したり、去年の部長大変そうだった。  三年生唯一の女の先輩、涼子先輩はタバコをふかして「やれやれ~」ってあおってる。   三年男子三人衆、今年は、……るなちゃんに興味津々のご様子。可愛い子は大変ですね~。  ゆうくんは部長とはなしてる。どんなところ行くんですか?とか、興味津々みたいで凄く楽しそう。 「ゆかさん、お肉取ろうか?」  突然、話かけて来たのが健治くんでちょっと驚いた。初めて話したかも。 「ありがとう。健治くんと話したの初めてじゃない?」  彼は、ひょろっと細いが、切れ目で美形の顔立ちをしている。 「あは、そうかもね」  笑った顔は可愛い感じ、三年生女子の先輩に可愛がられているわけだ! *  *  *  *  *  ゆうくんと健治くんが酔っぱらい。 (結局、酒をもられた)  グダグダになったところでお開きとなった。 「みんな気をつけて帰るんだぞ!」  部長、道路で寝てるゆうくんは帰ることすらできません…… 健治くんは、ぼーっとしてはいるが大丈夫そう。   全く、ゆうくんてば。  起こそうとしたその時、吉田先輩がゆうくんを肩で担いだ。 「悪いな、オレが飲ませちまったから責任持ってこいつ送るよ。」  助かった、吉田先輩はいい加減だけど憎めないとこがある。 「あ、私も駅まで見送ります!」 「ちょっと待ってください」と、私を引き止めたのは、るなちゃんだった。 「ゆかちゃんと、私と、健治くんの三人で話がしたいんですけど良いですか?」  なんだろう?私の裏の事情聞いたのかな。 「吉田先輩、ゆうくんお願いしても大丈夫ですか?」 「大丈夫、まかしといて!それに、ゆかちゃんは体弱いんだから、そのまま親に迎え来てもらいな、無理しちゃダメだよ」 「はい、ありがとうございます」 こうして三人で人気の無い方へ歩き出した。  ……………… しばしの沈黙…… やっぱり私の事情を聞いたんだろうか……。  沈黙を破ったのは、るなちゃんだった。 「ゆかちゃんの事情を聞きました……その上で話します……」   やっぱりそうくるよね、ごめんね……巻き込んじゃって。 「私、祐司くんの事が好きになりました!」  突然の事に驚いた。ちょっとムッともしたけど。 「生きてるうち頑張んないと、とっちゃいますからね」  そう言った、るなちゃんの笑顔はどこか清々しい感じがして悪気が無いように思えた。 「ゆかちゃん、驚くのはまだ早いよ!次は健治くんでーす」  しかし、健治くんは顔をそらしたまま。 「ほら健治、しっかり!」 「ゆかさん……」 声は出たものの、まだ目線をそらしている。   いやチラチラは見ている。 少しじれったい。  るなちゃんの張り手が背中をおす。 健治くんは決意を込め、私と目を合わせた。 「ゆかさん!僕と結婚してください!」  プロポーズされたということでいいのかな。 これも、あまりに突然なことでなんて返していいのか……。 「一目見た時からあなたが好きでした。けして、酔っぱらったから言っているのではありません。今日言うつもりでした」  彼の目は、真剣。 「死んでしまうまで僕が君を幸せにしたい。」  たぶん、彼の決意は本物だと思う……だけれど。 「ごめんね。心に決めてる人がいるの」  すると、彼はくるりと背を向け走り去ってしまった。ごめんね。  るなちゃんが続く様に答えた。 「さっきは、ああは言いましたけど、結構応援してますからね」  るなちゃんも、走り去ってしまった。  5月のまだ肌寒い夜は一人になると余計に見に染みた。  私は、無理せず迎えを呼ぼうかな…… そういえば、お薬、飲み忘れてるから飲まなきゃ…… 少し涙がこぼれた。
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