上手くいかないゴールデンウイーク・出発編

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上手くいかないゴールデンウイーク・出発編

 5月始め、私達サークル員は部長にいつもの場所へ集められていた。 「さて、集まってもらったのは他でもない。ゴールデンウィークが来るからです。」  このサークルには、毎年好例となっているゴールデンウィークの小旅行があった。  いや、正確に言うと私が入る前、今の部長が入った年から。 部長の祖母が民宿を営んでいて少しサービスしてもらえるっていうのが理由。 「今年も、三重県縦断、グルメの旅!」  部長は力強い顔つきで、ペンを持ちホワイトボードに向かった。 一日目朝東京発 ~ 四日市  昼食 トンテキ 伊勢・志摩 → 赤福その他横丁有り、伊勢神宮 夕食 → 民宿:福若 海の幸 二日目朝食 →民宿:福若 海の幸 昼食→松阪牛 最後、長島スパーランド 遊園地! 「この旅行に行ってもいいというものは?」 全員が手を挙げた。 「高いぞ……楽しんでくれ……」  そう高いの……新幹線代込み電車代で15000位、一泊10000、宿泊代は部長価格らしい、本当は16000らしい……お得! その他お食事代で10000、遊園地5000……宿代はお得でもやっぱり高い…… 。  そんな事を考えていたら、ゆうくんが隣で手を挙げた。 「あの~、ゴールデンウィークっていつでしたっけ?」 「ああ、2日後」 「この前戻って来たばかりなのに、もう休み……」  ゆうくんの得意の変顔に部長は笑顔で答えた。 「君はついているよ」 *  *  *  *  *    前日夜 私は去年の事を思い出していた。  新幹線でのお弁当の割箸、彼は口に咥えて割るから注意してちょっと喧嘩になった。  四日市について、部長の叔父が小型のバスで迎えに来てくれた時も……ボロッなんて言うもんだから……。 でもまあ去年は出だしが悪かっただけで、それからは楽しかったのを覚えてる。 トンテキが大きくて、美味しかったり。 伊勢神宮のおかげ横丁の入り口で、時代劇の浪人が座ってそうなお茶屋で、お茶と赤福を堪能したり。 志摩の方はバスから見える景色、最高だったり、夜のお料理もてんこ盛りで…… 。  準備できたし寝ようかな、今年は喧嘩しないようにしよう。 *  *  *  *  *  部長が全員の顔を見渡した。 「全員集まりましたね」  みんな眠そうに相槌した、そういう私も眠い……。  あの後、寝ようとお布団入ったんだけど、何故か二時間置きに起きちゃって、朝はまだか~って何回起きたことか……。 「ゆか!」 ゆうくんはこういう時、元気なんだよね。 朝ご飯、お弁当何にする?だって。ごめんゆうくん、私は朝そこまで入んないよ。私はミックスサンドイッチかな。  そこへ元気よさげな、るなちゃんが近寄ってきた。 「祐司くんお弁当なに買うの?」  るなちゃんも買うの?わたしもやっぱり無理して買おうかな。てか、るなちゃん、プリーツがひらっとして可愛いミニスカートでクール目な姫系な雰囲気でとても可愛い…… 私は膝上位のフレアスカートでオシャレにと思ったけど、がんばってミニスカートもよかったかな……、そんな事を考えていたら二人は足並みを揃えて歩き出した。 「ゆうくん!私も……」 「いいよゆか、買ってきてあげるから、ミックスサンドでしょ?」 止める間も無いまま二人で行ってしまった。  もしかして、私出遅れてない?ヤバい気がしてきた…… そんな時、涼子先輩がやってきた。 「ちょっと大丈夫なの?ゆか?」 「先行き不安ですよ!涼子先輩!」  そんな私を見て涼子先輩は少し楽しそうに笑った。 「良いと思うよ!楽しくなって来たじゃない。正直私さあ……」   言いかけ、涼子先輩は煙草を探した。 「少し付き合って」 一本だけと、涼子先輩は喫煙室に入って行った。  何を言いかけたのか……。 「ごめんね待たせて、さっきの続き言うか、実はだいぶ前から迷ってたんだ……祐司くんを騙すの実はあんまり乗り気じゃなかったんだ私。なんかずるいなって」  涼子先輩は長く綺麗な髪を耳にかけ私に微笑んだ。 「でもライバルが現れた。やっぱり恋愛ってこうじゃないとって思うんだよね。ただレールの上を走る恋愛なんてつまんないと思うよ!応援するから頑張んな!」  心から感謝した。私もがんばらないとと思った。 *  *  *  *  *  頑張らないと……。 「ゆか!」  遠くでゆうくんが呼ぶ声がした。  気が付くと新幹線のホームをみんなで目指していたはずなのに、私一人だけ別方向にいた。  頑張らないと……。  ホームについて、まだ新幹線が来るまで時間があった。 喉が渇いたので微炭酸のオレンジジュースを買った。  ぶしゅー……。  手がべたべたになった。 微炭酸なのに……。  頑張らないと……。  手を洗いに行って、トイレの手洗い場に携帯忘れた……。  頑張らないと……。  電車が来た瞬間、飲み物のキャップを落とした。コロコロ転がって、ホームと電車の隙間へ……。  頑張らないと……頑張った!通路またいで、だけど新幹線の席ゆうくんの隣ゲット!  るなちゃんは私の前、指定席争奪戦は私の勝利ねオホホホ!  ゆうくんは…お弁当食べようとしてる…また口で割り箸を…いえ良いのよ。今日は、ケンカしないの笑顔の日よ。 「いただきます!」 「わあ、ゆうくんおししそうだね。私もお弁当にすればよかったかな……。」 「こら!祐司くん!割り箸口にくわえたらお行儀悪いでしょ!」  るなちゃんだった。  ゆうくんはきょとんとした顔で言った。 「るなちゃんて意外とお行儀いいんだね」 「意外とってなに、まったく。だ、め、よ」  るなちゃんの天使のような笑顔に一瞬にしてゆうくんの顔がデレっとしたのがわかった。 「ごめ~ん」  ガッデム!! かわいいからか?かわいいからなんでしょ?ああやる気なくした。もう寝る。 「涼子先輩、すみません窓側かわってもらってもいいですか。気分がよくなくって」  私はふて寝した。 *  *  *  *  * いつの間にか、富士山が見えていた。 「ゆか、やっと起きた!寝不足過ぎだよ!」  ビックリしたのは隣にいたはずの涼子先輩の姿がなく、代わりにゆうくんがいた事だった。 「ゆかも一緒にトランプやろうよ」 ゆうくんは相変わらずの笑顔。  何だか私考え過ぎていたのかな。もっと素直になれるかな。とりあえず、少し席を立とう……。 「ごめん、ちょっと飲み物買って来る」 「それならついさっき、販売の人が後部の方へ向かって行ったよ」  ありがとうと言って私は、新幹線の後部の方向へ歩き出した。頭が重いのは寝不足のせいなのか薬のせいなのか……ふらつきながら歩く。  次の車両に移ったとき、その待合通路の窓にもたれ掛かり外を眺めた。  もう富士山は梺の方まで来ていた。去年もそうだ、一人でこうして富士山を見送った気がする。  そっかぁ、去年と同じなんだ、ゆうくんは私のものじゃない。私は勘違いしてるんだ。なるべく、私は私のままでいよう。 *  *  *  *  *  名古屋から乗り換えて、そこからも長かったけど、やっと四日市駅に到着した。 駅のロータリーに降りると、それはやはり待っていた。 昔見たアニメに出てきそうな、普通じゃ見かけないようなレトロなバスがそこにいた。  私は、笑みとともに言葉漏らした。 「懐かしい、一年ぶり、本当、いつ見てもレトロだよね。」  しまった一年ぶりだなんて……、ゆうくんの顔に?マークがかかっているのが解る……。  ははは、と爽やかに笑ったのは健治くんだった。 「ゆかさんは本当に楽しい。」  そういうと健治くんは私の手をとった。 「一緒に座りましよう?」  彼の強引さに少し驚きつつ、私は気が付いたことがある。  彼は、私に笑顔を魅せながら、ゆうくんに不敵な笑みを送っていることに…… 。良いのだろうか?と思いつつ彼と伊勢まで行動することとなった。 *  *  *  *  *  まずは、伊勢に行く前に昼食から。 四日市のトンテキをご紹介!  ここのお店は、全お座敷席で玄関で靴を脱ぐ。   連日満員、そのわけは、やはりここのトンテキ。厚切りのトンテキにカリフワの揚げニンニクがトッピングされている。  そして、オリジナルなスパイシーと甘みが絶妙なソースがかけられ。 もう旨いの一言。  隣に座る健治くんも美味しいのか豪快に食べていた。 「健治くんて痩型なのに、もりもり食べるんだね」 「はい僕、痩の大食いなんです」  そういうとまたもりもり食べ始める。でも解るよ、この豚肉が柔らかくってジューシーでニンニクの香りが絡まって…… 気がつけば、間食。 ごちそうさまでした。  御一行は、ニンニクの香りと共にバスへと乗り込んだ。 *  *  *  *  *  バスは四日市から高速道路で伊勢へと向かっていた。  私の隣は健治くん。バスの中では今、先輩の持ってきたドコデモカラオケなるもので、それはもう盛り上がっていた。  驚いたのは健治くんの歌の上手さ! 彼は今、バックナンバーの幸せを熱唱し終えようとしていた。 「あ、すみません。ありがとうございました」  イイゾーケンジー、みんながエールを送るなか彼は照れながら席についた。 次は……るなちゃんか……、なに入れるんだか。 ルナチャンマッテマシタ!  そんな中だった……。 「ゆかさん、オレ……悩んでいる事があるんです。」  健治くんが唐突に話してきた。 「何かあったの?」  彼は一枚のA4用紙を渡してきた。  それには見覚えがあった。大学に張られている、短期留学のチラシだった。 「すごいね!挑戦する事は良いことだよ!」彼は暗い顔でうつむいた。 「だた……」  きっと私の事かな……。でも私はいずれ過去の人となってしまうから、気にせず将来の事を考えて欲しい。行くべきだと思うよ。健治くんが居ても居なくても、それは決まっているのだから……。 「行くべきだよ!私の事は気にしないでよ」  彼は、私を見つめた、真剣な目だった。 「だって、帰ってきたら、もう、あなたがいないんだと思うと、少しでも長く目に焼き付けておきたくて……」  彼は外を眺めた。 「オレは無力だ……」  聞く間もないうちに、るなちゃんへの拍手でバス全体が包まれていた。
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