2日目(前編)

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 朝。目が覚めて、そうっと隣の部屋を覗くとセミ男がいた。うーん、やっぱり夢じゃなかったか。  昨晩はあのあとセミ男を家に入れて、もう深夜だからと飯も食わずに風呂に入って寝た。  時間の感覚がバカになっていたらしい。脱衣所で服を脱いで、腕と足に4か所、首と顔も蚊に刺されていてビックリした。  本当、ビックリだよな。セミ男のこともそうだが。声をかけられたのは太陽が真上にある時だったのに、裏山に入ったら一気に夜になって。昔から、あの山には不思議な雰囲気がある。  セミ男は「オレもあの山は心が落ち着いて大好きだよ」って言っていた。その、セミ男は。  死後の世界。セミとして死んだあと、所謂“あの世”で神様に泣きついて俺に恩返しをするチャンスをもらったんだとか。  死んでから昨日までの5年間、ずっと休むことなく神様の手伝いをして。そしてついにその努力が認められ、晴れて昨日、俺と同い年の人間の男として生まれ変わり再会を果たした。  神様って本当にいるのか?ニセモノなんじゃないのか?もし本物でも、セミ男の努力が認められたんじゃない。  たぶん、しつこかったんだと思う。現時点で俺が感じたセミ男の性格を考えると、俺への恩返しがしたい一心でずーっと頼み込んで。あまりのしつこさにイライラが爆発して追い出したくて願いをかなえた。  そうだろ?お決まりなら、天界とかいう上の世界にいらっしゃる神様?こいつ、本当にウザったいよな。  神様の手伝いをしながら人間のこと、この世界のこと、色々学んだんだと。だから人間としての暮らし方は何となくわかるって、ドヤ顔で言っていた。  ドヤ顔をしていたくせに、1人で風呂に入れないとか言って。結局、俺が一緒に入って教えたんだが。
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