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「あいにきたぞっ!!」
突然、元気いっぱいな声が俺の鼓膜と心に突き刺さる。ひっきりなしに汗が流れる、今年1番の暑さを記録した日だった。
8月。容赦なく猛威を振るう夏の盛りに、神様はとある1つの願いをかなえたらしい。
うだるような暑さの中、声の方を振り向くとフライパン状態になっている地面に逃げ水。ゆらめくカゲロウの中、その人はまっすぐ伸ばした両腕をブンブン振っていた。
生き物を絶滅へと追い込みたいらしい夏にすっかり負けて溶け始めていた俺の体は、それでも動くのか。なんてどうでもいいことを思いながら。
うしろを見て、なおも絶えず手を振りながら笑顔を振りまきまくっているその人を見る。それを、3回。
目を凝らし、走ってきたその人を見つめる。逃げ水の上、カゲロウの中でゆらめいていた幽霊のような足が、はっきり実体に変わった。
なんだ、白昼夢じゃないのかよ。暑すぎて頭がおかしくなって、幻を見ているのかと思ったが。目の前で立ち止まった、やたら元気なその人に俺は言った。
「…………あんた、誰だ?」
俺はこの人を知らない。“ザ・サマーボーイ!”みたいな男だ。歳は俺と同じ23くらいか?顔も首も、半袖から伸びる腕も半ズボンから伸びる足も小麦色。
滝のような汗をかいて真っ黒い髪はベッタリ額に張り付いていて。その下にある灰色の瞳は、右は眼帯に隠されている。
人懐っこい犬を彷彿とさせる、終始弾けんばかりの笑顔はちょっとあどけなく子供っぽい。至近距離で俺を見上げて、嬉しそうに体を揺らしている。
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