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「笑えない冗談……じゃ、ねぇんだな。あれか、生まれ変わるための神様と交わした約束ってやつか?マジかよ」
尊が言ったことが冗談なんかじゃない、真実なんだってことは真剣な表情を見れば嫌でも実感する。けどな、はいそうですかってあっさり受け入れられるほど俺の心は強くない。
俺は大きく息を吸って、突然襲ってきた激しい眩暈に尊を強く抱きしめた。ちょっと、時間をくれ。
昨日の晩、寝る前にこれからの話をしたいって言っていた。このことだったのか。神様との約束ってさ、嫌気がさすほどお決まりの約束だ。
いきなり人間の大人の姿に、それも前世の記憶を持って生まれ変わるなんて。この世界の理を完全に無視してやってのけたんだからな。
活動範囲が限られる制限がつくのはまだわかる。けどさ、1週間しか生きられないなんて。
「セミらしい、でしょ?本当はセミは、もっと長生きなのにねぇ?」
「笑うな。あんたの命、あと半分のくせに。こんな時に笑うんじゃねぇよ、泣き虫のくせに。悔しくねぇのかよ?」
尊は笑う。体を預けた俺の背中を優しく撫でながら、諦めたように笑っている。いや、諦めたんじゃない。こればっかりはどうあがいても変えられない未来だからと、受け入れている。
神様としては「願いをかなえてやることに変わりない」と言い張るんだろうな。……どんな神様なのか、会ってみたくなったな。
それにしても、あと3日と十数時間。その時が来れば、世良尊は跡形もなく消えてしまうのか。
尊が受け入れてしまっているのなら、俺もそうするしかない。これから一緒にやろうと思っていたこと、大急ぎでやらないとな。
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