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「人気者は辛いねえ」
「っ、!びっくりした。部長、いつの間に。……全然、人気者なんかじゃないですから」
緋山部長はいつの間にか、チェアに腰掛けてデスクに肘をついていた。
その口元はやたらとニヤついている。
何だかさっきから背後を取られてばかりだ。
「部下二人に心配されて、しかも下の名前で呼び捨てして欲しいと言われてんのに?どう見たって大人気じゃないの」
「そんなの……あの二人は部長にだってそうしますよ」
「まあ私の場合、あの子らに心配される程柔じゃないし?それに最初から苗字は呼び捨てだけど、さすがに下の名前までは、ねぇ」
愉快そうに笑う部長からは、甘いバニラの香りがした。
彼女のお気に入りのキャスターという煙草のおかげで、今まで彼女がどこに居たのかすぐに分かる。
いつもならこの香りで部長がいる事にすぐに気付くのに、今日は全くと言って良いほど気付かなかった。
それだけ動揺していたのだろうか。
「で、なんでその流れになったの?」
「っもう、部長まで!仕事するんだから放っといてください!」
「あっはっは」
はいはい、と笑いながら私の頭をポンポン叩き、部長は自分のデスクに戻って行った。
ったく、どいつもこいつも……
こうしてイジられるのもいつものこと。
我らが営業企画部は、今日も通常運転だ。
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