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 ぐいっとジョッキを煽る彼女を見ながら、自分が今気付いた事実に愕然とする。 『間接キス』  もし彼女が気付いたとしても、何とも思わないかもしれない。  でも引かれて、嫌われてしまう可能性だってある。  何となくだけど、後者の確率の方が高いような気がした。  万が一嫌われなかったとしても、その事実がずっと頭の片隅に残って、いつか私の顔を見るのも嫌になってしまうかも……  というか知った時点でそうなってしまうだろう。  もしそんな事になったら、立ち直る自信なんて……無い。  残ったビールを美味しそうに飲みながら、緋山部長や咲良ちゃんと楽しそうに話す彼女から、笑顔を奪いたくなんかない。    だって、間接キスなんてあり得ない。  私は彼女の友達でも、ましてや恋人でもない。  ただの上司なんだから。  そもそも私たちは女だし、恋愛対象になんか間違ってもなるわけないし、ただの上司と間接キスしたなんて気付いたらきっと幻滅するに決まってる。    たとえ成り行きだとしても、やっちゃいけない事だった。  だから、このことは莉那ちゃんには気付いてほしくない。  ……嫌われたくない。 「先輩、顔色が悪いですよ。お冷もらってきたので飲んでください」 「……っ、ありがと」  声がした方に振り向くと莉那ちゃんが心配そうに私を見つめていて、顔の近さにひどく驚いた。  彼女はそんな私を見て、苦笑した。  テーブルを挟んで向かい側にいたはずの彼女は、いつの間にか私の隣に座っていたのだ。  彼女がいたはずの場所には咲良ちゃんが座っている。 「そんな驚かなくても。……考え事ですか」 「ううん、何でもない」  冷えたグラスを受け取りながら、何となく彼女の表情を窺う。  お酒のせいでほんのりと頬が色付いている以外は、いつもと何も変わらない。  無理矢理作った笑顔はきっと引き攣っている。  きっと莉那ちゃんも、私がいつもと違うことに気付いてるに違いない。
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