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「乾杯ー!」  私の掛け声で、その場にいる全員が手に持ったグラス同士をぶつける。  ついに待ちに待っていた飲み会が始まった。  今日はこの春に入社した新入社員の歓迎会が開かれていた。  ここしばらくは、立ち上がったばかりの新しいプロジェクトのお陰で、寝る暇もないほどの忙しさだった。  気付けばもう六月になっていて、詰め込まれたスケジュールにようやく空きが出来た頃だった。  冷えたグラスに並々と注がれた橙色の液体。  それを半分くらいまで胃に流し込めば、久々のアルコールに心も体も喜んでるのを感じる。  一杯目はカシスオレンジと決めているから、例に倣って今日もそれにした。  これがビールなら少しは様になるのかも知れないけれど、苦手なものは仕方がない。 「ぷはー、生き返ったぁ」 (どこのおっさんだよ、私は。こんなだから彼氏が出来ないんじゃないの?)  頭のどこかから聞こえたツッコミには、両手を耳に当てて聞こえないフリをした。  だってせっかくの飲み会だ。  楽しまなきゃもったいない。  それに今は恋人なんて募集してないんだからね。  出来ないんじゃない。必要としてないんだから。  ここ大事よ。  それにしても仕事の後のお酒って、どうしてこんなに美味しいんだろう。不思議。  一週間と言わず、一ヶ月くらいの疲れが一気に吹き飛んだような気がする。  たった一口飲んだだけなのにそう思えるなんて、自分の単純な性格には我ながら呆れてしまう。
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