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結果だけ言えば、やっぱり飲めなかった。
さっきの騒がしさが嘘のように、明からさまにテンションの落ちた咲良ちゃんが、残念な人を見るような目で私を見た。
「やっぱ宏実さんは究極のヘタレですね……ビール一杯も飲めないなんて」
「咲良さん、ビール飲めないだけではまだヘタレとは決め付けられませんよ。頑張って二口飲めたんですから」
「フォローしなくて良いのよ坂井さん。仲原は根っからのヘタレなんだから」
「ヘタレヘタレって……、いいもん。私はビールも飲めないとんちんかんでスカポンタンでお人好しで弱虫で大バカ野郎なヘタレですよーだ」
「あの……先輩、そこまでは言ってないです」
もう、みんな言いたい放題なんだから。
私の見方をしてくれるのは莉那ちゃんだけか。
部署に莉那ちゃんが加わっても、私のいじられキャラは健在のようだ。
それでも楽しそうに緋山部長や咲良ちゃんと話す姿を見ていると、なんだかこちらまで嬉しくなってくる。
咲良ちゃんの天真爛漫さのおかげか、元々のコミュ力か分からないけど、莉那ちゃんは馴染むのが早かったように思う。
営業企画部だけでなく、他部署の人ともよく話しているのを見かけるし、きっと後者なのだろう。
この部署には彼女のような人が向いている。
ここ最近は数年、数ヶ月さえも仕事が続かない人が増えているからだ。
「先輩、飲めそうに無いなら、それ私が飲みますよ」
「あ、うん、ありがとう」
ビールが少しだけ残ったジョッキを彼女に手渡して彼女が口を付けるのを何となく見ていたら、ふとある事に気付いた。
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