哀愁のテール・ランプ

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哀愁のテール・ランプ

「………これって、人生の破局よ。」 今を去る事、数年前………。 実は私、東京都渋谷区にある歩道橋の上から身を投げ出してしまおうとしていた事があるの。 その時、歩道橋から見える自動車の赤いテール・ランプが、このワタシを黄泉の国から迎えにやって来た火の玉みたいに思えてしまって………。 ずっとずっと迷走してた、あのウィリアム・シェイクスピアの世界に出て来る『ハムレット』みたいな、その頃のワタシ。 ワタシね、こう見えて、六本木の町にある高級クラブと呼ばれてるお店でホステスの仕事をしてるんだけど………。 お店の名前は、……… 【 Rendez-vous 】 自慢じゃないけど、現役時代はナンバーワンの座を誰にも譲った事なんて無かったのよね。今から思えば、あの時、あいつらをワタシに差し向けた相手って言うのは、このワタシをナンバーワンの座から引きずりおろそうとしていた、同じお店のアバズレかも知れないけどね。 ワタシの本名は、二宮 亜李須。 東京生まれの東京育ち。………の筈なんだけどね。 血液型はO型。星座は獅子座。 幼い頃の事だけど、両親が多額の借金を残して、無理心中を企てたの。ワタシも一緒にね。でも、ワタシ一人だけ生き残ってしまって………。 今でもワタシ、その借金の返済を背負わされちゃってるのよね………。 だから、昼間の仕事だと生活がきつきつになるから、自然と夜の世界に足が向いてしまって。 でも………。 ひょっとしたら、今迄のワタシ、気付かない内に何時の間にか、金の猛者に成り果ててしまっていたのかも知れないわね。 もし、あの日、あの時、あの場所で、あんな目に遭わなければ、今頃、ワタシの運命って………。 それは、と或る夏の日の夜の事だった………。 その日は丁度、お店が休みだったのよ。それで、ワタシ、その日の夜に、コンビニまで出かけててね。………あっ、其処のアナタ!ひょっとして、銀座や六本木のホステスは、コンビニなんかで置かれてる安物なんて買う筈は無いって思っては無いでしょうねぇ? 衣類や小物に例えたら、ブランド品にしか興味が無いなんて思ってるんでしょう? 他の女の事情は知らないけどぉ………。 案外、ワタシって、貧乏性なのよね。 その日もワタシ、近所のコンビニにおでんのコンニャク買いに行こうとしてたんだけどね? 幼い頃、施設で育ったって言うのもあるのかも知れないけれど、一般庶民のお子ちゃまなんて、欲しがるモノは皆、下らないモノばかりだと言うのに、何でもかんでも親に買って貰おうとするじゃない? でも、ワタシには、物心付いた頃には、そんな親なんていなかったものだから………。 でも、お店のある時とかは、殆どと言って良い程、殿方に貢いで頂いてますからねぇ。当たり前の様に、ブランド品のバッグとかお財布とか、頼みもしないのに一方的に押し付けられて………。 でも、要らないモノは、捨てるのは悪いと言うか何と言うか、棄てるとモノが可哀想だと思ってしまうから、………そんな時は、ワタシの育った施設に寄付してたりしてるんだけれど。 ………でも、一番困るのは、アフターなのよね? 営業中に少しチヤホヤして上げると、中には女に持ててると勘違いしてしまう単純な、殿方と言うよりも、男でも無く、オス的な単細胞なんかがいるんだけれど、そんなヤツは、その内にアフターなんかに誘って来ようとして………。 若いホステスの女の子の中には、お酒に酔ったそのノリで、お付き合いしてる娘たちもいる様だけれど………。 ………それでも、最初は、焼き肉とかお寿司に誘われてるうちは華なんだけどね? でも………! 全く、大抵のスケベな親父キャラって言うモノは、必ずと言って良い程、女を抱くだとか、女を脱がせる事にしか頭に無いのよネ。 この前もワタシ、アフターに誘われたんだけれど、最初はカクテル・バーで乾杯して、ホロ酔い気分でワタシの方から相手の殿方に抱き付いてしまって………。 それは、ワタシの計画と言うより、ミステイクなんだけどね。それにしたって……… 「そんなに酔いが回ってて辛いのなら無理なんかしないで、僕がホテルを予約して上げるから、少し休んでた方が良いよ。」 なんて言われてしまって…………………
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