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彼の名はガーディアン
「……………………………………!」
「………愚かな事は、考えてはなりませんよ。」
「……アナタ、どちら様?」
「此処は、人が多過ぎます。立ち話もなんですから、場所を変えましょう。」
「………………………………。」
渋谷の駅から少し離れたセンター街の辺りにあるカフェで、その紳士とお話していたワタシ。
「……それで、アナタは何処のどちら様?」
「これは、これは、失礼しました。余りにも、アナタのお姿が一段と美しく見えましたから、ついつい、見とれてしまいまして……。」
「……御世辞は結構ですから。それに、そんな台詞は、とっくの昔に聞き飽きてます。」
思わず、紳士は咳払いをした……。
「申し遅れました。ワタクシはこの様な者です。……しかし、あの頃の面影は、今でも少しも変わりませんね?」
そう言って、紳士は名刺を1枚、ワタシに差し出した。其処には、厳かな字体で………
【 聖オルフェウス真教協会 】
……………………………《 アドニス・ガブリエール 》
………………………………………と、記されていた。
「………何ですか、これ。それに、アナタは以前、ワタシとお会いした事、あるんですか?ワタシ、アナタとお会いするのは、今日が初めてだと思うんですけど。」
「そうですか……。それなら、それで宜しいのですけれどね。しかし、アナタの問題については、ワタシには、見て見ぬ振りをする事が出来ないのですよ。」
「……日本語が大変、達者でいらっしゃるんですね? とても日本人には見えない方の様にお見受けしますけど。」
「…………流石ですねぇ?」
「………え?」
「アナタの台詞は、話の受け流しに不自然さを感じさせない。……話し相手に対してはね。」
「それで、アナタはワタシに何の用ですの?」
「………実は、アナタの業を、ワタクシに背負わせて頂きたいのです。」
「どう言う意味ですの?」
「つまり、アナタの悩みをワタクシに打ち明けて頂きたいと言う事です。」
「でも、どうして、見ず知らずのアナタなんかに、そんな事を……?」
「それは、このワタクシがアナタのガーディアン。……つまり、守護天使だからですよ。」
「御免なさい。ワタシ、天使とか神とかそう言う存在は信じてませんから。それに、そんなモノは迷信だと思ってますので。」
「……何故、そう思われるのですか?」
「だって、そうでしょう?もし、神様なんかが存在していたとしたら、ワタシだって、今みたいにはなってなかったわよ。ワタシのパパとママだって、心中なんてしなくても済んだ。…それに、環奈だって!」
「……………………。」
実は、ワタシには、環奈って言うお友達がいたんだけどね………。今のお店に、ワタシと同じ日に入店して来た娘だったの。ワタシとは年の頃はそんなに違わなくて、だからこそ親しくなるのに時間が掛からなかったのかも知れないけれど……。
……でも、彼女の方が性格的におっとりしてて、落ち着きがあって、だから、同じテーブルで接客していても、お客からは、ワタシよりも環奈の方が歳上に見られてたのかしらね。
ワタシ達のお店って、それでも高級クラブで名前が通ってるから、下品な男とか公序良俗に反する様な不埒な輩は、お客として来店する事は無かったんだけれど、それでもホロ酔い気分で女の肩に手を回す男性客はいたかしらね……。
でも、ワタシと来たら……。
ワタシって、男性客からどう思われてるのか分からないけれど、稀にお尻を触られたり、撫で回されたりする事があって、それでもお客に興味を引かせる為に、少しは我慢もしてたと思う。
それとは裏腹に………
………環奈は、男性客からも気遣いされがちで、お客とは、上品で情緒的なお付き合いが出来てたみたいだけれど。
ワタシからすれば、肖りたい存在かしら……。
それでも、例えワタシがイヤな想いをして、辛い気持ちを引きずっていたとしても、環奈が傍らにいてくれたから、だからこそワタシは頑張れた事もある訳で……。
彼女とは、お店の営業以外でもお付き合いが出来る仲で、一緒に食事したり、ショッピングしたり、遊んだり、それでも環奈と一緒に男遊びをする間柄じゃ無かったけれど。
……だって、彼女には、心に決めたフィアンセがいたらしいから。そう言えば、その彼も何度かお店に来て頂けてた筈の様に思うんだけど。
でも、丁度その頃……。
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