唐柿師匠

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先生はこのところ、庭に植えた唐柿、フランス語ではポム・ダールと言うらしいですが、所謂トマトを育てるのに熱中しておられます。 白井さんがトマトの苗を持って来られ、それを庭に植えられました。 白井さんが何処からか一輪車で運んでこられた土が肥えていたのか、どの幹にも見事なトマトが下がっております。 「先生、唐柿とはまたハイカラなモンを育てられてますな」 と、リヤカーで野菜を売りに来られた八百屋の喜八さんが庭に入って来られてそのトマトを見ておられるのが嬉しいようで、先生は煙草をお呑みになられながら、微笑んでおられます。 「東海の後輩に苗を送ってもらったんです。どうやらトマトケチャップを作って売るそうです」 白井さんは縁側に座り、汗を拭いながらそう仰いました。 「ほう。日本も西洋のモノがどんどん入って来てハイカラになりますな。その内、刺身にケチャップを付けて食べる時代が来るのかもしれませんな」 喜八さんはそう言うと大声で笑っておられました。
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