ペアのリング

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藤田文乃が愛して止まない月美さんという人は、1年前からアルバイトをしている駅の近くにあるジュエリーショップの店員だ。この店はそんなに高級ではないアクセサリーを売っていて、若い年齢層をターゲットにしているショップである。月美さんの年齢は文乃の2つ上、19歳だ。柔らかそうなパーマをかけた長い茶色い髪、スポーツジムで鍛えた身体、それに目の大きな整った顔立ちに文乃はいつも心奪われている。 「文乃ちゃん、今度ジムの体験に行ってみない?それで気に入ったら一緒に通おうよ」 アルバイトの途中、お客さんの姿が無い時に月美さんは親切に誘ってくれる。文乃は現在高校生。アルバイトもあり忙しい生活を送っているので、なかなかそれに答える事が出来ない。でも、季節は6月。もうすぐ暑い夏がやってくる。それまでに少し筋肉をつけて、月美さんの様になりたいと思う。 「ジムかー。土曜日だけでも行ってみようかな」 土曜日ならアルバイトが夕方からなので少し時間がある。母も許してくれるに違いない。 「そう、そう。今度付き添ってあげるから一緒に行ってみようよ」 月美さんが少し日に焼けた小さな顔を綻ばせる。文乃はジムに2人で行く事を想像してワクワクしてきた。 ジュエリーショップは夕方の6時から夜の9時まで、週に4回アルバイトをしている。月美さんはそこの社員だ。高校を卒業してから働いていると聞いた。 「すみません、これ、イヤリングだけですか?ピアス売ってませんか?」 お客さんに声をかけられる。最近は男女問わずピアスを開けている人も多い。文乃も高校を卒業したらピアスを開けてみたいと思う。 「はい。まったく同じのはありませんが、似たような物はありますよ」 接客も板についてきた。将来は月美さんみたいに正社員になるのも悪くないな。
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