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桜吹雪の舞い散る頃、初音は生まれ故郷である中津國より六日かけてこの斎賀國へと嫁いできた。斎賀の若君である章継(あきつぐ)と初音の婚姻は両国の同盟を強化するための手段、いわゆる政略結婚だ。
そもそもこの婚姻において初音に白(しら)羽(は)の矢が立ったのは、遠縁ながら国主の血を引いているためだ。初音の母は現国主の姪(めい)で、父は代々国主に仕える家臣の系譜だった。
政略結婚と言えど国と国を結ぶ大事な役割を自覚して、初音は顔さえ知らぬ夫に添う決意を固めてきた。けれど肝心の夫はというと、戦に出たままいつまで経っても帰らない。
対立国との戦はすでに終結していると聞く。あらかた戦況が見えた頃、屋敷を取り仕切る女官より夫の帰還予定を十日後と聞いた時は、まだ見ぬ相手に淡い憧れを持つ気持ちもあった。
しかしそれから二十日、一月、一月半とその予定がずるずる延びて、そんな想いはしおれてしまった。
歓迎されていないのではないか。
ここへ来たのは間違いだったのかもしれない。
そんな不安が徐々にふくらみ、独りでひっそりと涙をこぼした夜もある。
次に悔しさが噴き出した。
初音は己に課せられた役目を果たすために住み慣れた場所を離れ、家族や親しい友人とも別れ、馴染みのないこちらへ嫁いできた。
というのにこの扱いときたら、初音だけでなく、祖国をも愚(ぐ)弄(ろう)していると言えるだろう。
顔を見たら一言言ってやらなければ気が収まらない。そう息巻いていたのはすでに過去。ついに二月が過ぎた時、初音は諦めを覚えた。
季節はめぐり、ぬるい雨が降り注ぐ時期となっていた。
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