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後日譚その三・妻への不満、に見せかけて?
「これからは敬語でなくともいいぞ」
庭の椿を眺めながら並んで火鉢に当たっている時に、ふと章継の口からそのような言葉が漏れた。
「はあ」
特に意識していたわけではないが、そう言われてみればずっと敬語で通している。
「もっと気楽にしてくれ」
「自分では十分気楽なつもりなんですが」
初音が頭を傾けながら答えると、章継は手の内の茶碗から茶をひと口すすって、「そうか?」と尋ねる。
何か含みがあると思われるのは本意ではない。
「そうです。……私、よそよそしいですか?」
「いや、そういうわけではないが、正式に夫婦となったのだからと」
期待を込めたまなざしに、初音はううんと首をひねる。
「御前様だって敬語ですけど」
「それはそうだが……」
義理の母である藤御前は、大殿と連れ添ってもう二十年近いそうだが、今でも大殿に敬語を使っている。実家の母も、父に対しては丁寧な言葉づかいをしていたから、初音の中ではそういうものだと思いこんでいた。
城主である夫相手にあまりくだけた態度で接するのも気が引けて今まで敬語で接してきたが、もしかしてそれが不満なのだろうか。
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