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短編読みきりホラー小説
それは蒸し暑い夜だった。
その日私は、連れの北斗と友達の上地雄の家に、
遊びに来ていた。
上地は俺達の中では一番の出世頭だった。
なんせ雄は、芸能界でいっせいを風靡したあの、
ユッコリンと結婚していたのだから。
モッコリ星のフレーズで有名な、
あのユッコリンである。
頭の悪い俺達の中でも特に頭の弱い上地が、
芸能人と結婚するとは、
それもあんな美人と。
世の中はわからない。
まあ頭が弱いという意味では、
そのユッコリンも相当なのだが。
なんせ自分は、
モッコリ星から来たお姫さまなどと
のたまわって・・・・・・
いや風潮していたのだから
相当だ。
とは言え花の芸能人である。
3DKとは言え、こんなアパートで雄と暮らしているとは今でも信じられない。
それはそうと、久し振りに会った雄は、
やつれて見えた。
連れの北斗が、
そんな上地を気づかって声をかけていた。
「雄痩せたな。
飯食ってるか!?
新婚さんは毎晩忙しく飯も喰えないってか!
ガッハハハ♪」
粗雑<そざつ>なのは生まれだとして仕方ないとしても、もっと言い方がないか。
俺が呆れてそのやり取りを見ていると、
雄が不思議な事を口走った。
「いや、俺新婚だけど向こうの両親と一緒に住んでるから」
俺はその言葉が妙にひかっかった。
ユッコリンに両親なんていたか。
いや人間である以上両親はいるだろうが。
確か何年か前にユッコリンの両親は
自殺したとか行方不明になったとか、
何かで読んだような。
記憶が曖昧ではっきりとはしないが。
俺はそんな疑問を雄にぶつけた。
「ところで雄。
向こうの両親と同居って、
このアパートでか?
今いるのか?」
「今はいないよ」
何故か要領を得ない。
昔からはっきりしない性格ではあったが、
今はそれに尾をつけたように酷くなっている。
どこか虚ろな雄の目を見つめたずねた。
「どっか出かけてるのか?」
「うんうん違うよ。
同居と言っても、隣の部屋を借りて住んでるんだ」
まあそんだけ近ければ同居と言えなくもないが。
「雄その両親とは良く会うのか」
「そりゃ同居人だから・・・」
そこで雄は何かを考え込んで続きを答えた。
「そう言えば僕、
向こうの両親の顔を知らないな」
・・・
突っ込みどころが多過ぎて、
言葉が出ないと言うより、
考えがまとまらない。
「つまりだ雄。
お前は向こうの両親には会ったことがないんだな」
「うん。
気がつかなかったけど、そう言えば僕は
向こうの両親と会ったことないな」
脳みそ沸いてんのか!?
どこまでアバウトなんだ・・・
まの抜けた雄の顔を見ていると、
そんな突っ込みをするのもアホらしくなる。
これがこの男の長所であり短所なのだが。
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