doll 人形

1/21
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/21
伯父が亡くなった。 もう、ずいぶんと会っていなかった。 僕が小さい頃には、夏休みになると親戚一同が婆ちゃん家に集まり、もちろん、そこには伯父もいた。 伯父は変わり者で有名だったが、人当たりは良く、甥や姪の中でも特に僕を可愛がってくれていたように思う。 夏祭りの夜、伯父は祭りで好きなものを買いなさい、と僕に5千円握らせた。 さすがに5千円は多すぎると返そうとしたが、伯父は笑顔で去っていった。 僕は、そのお金で伯父が喜びそうな屋台の品を買い、親戚から少し離れた場所で酒を飲んでいる伯父に渡した。 イカ焼き、糸ひき飴、そしてスーパーボール。 伯父は、それを見てニッコリ笑い、ことのほかスーパーボールが気に入ったらしく、ずっと手のなかで転がしながら酒を飲んでいた。 丸まった伯父の背中に、少しばかり哀愁があり、僕はいつも伯父を気にしていたように思う。 婆ちゃんが亡くなってからは親戚は集まらなくなり、僕も伯父とは疎遠になっていた。 大学を卒業して入社し、特別彼女などもいない僕は、いたって普通の毎日を過ごしていた。 そこへ、伯母から一報がきた。 伯父が亡くなったと。 伯父の事など、記憶からすっぽり抜けていた僕は、久しぶりにあの祭りの夜を思い出した。 スーパーボールの伯父のことを。 久しぶりに会う親戚は皆、すっかり歳をとっていたが、それぞれに元気だった。 「おー、祐也お前、おっきくなったなぁ」 伯父の弟である辰巳おじさんが、僕の肩を叩きながら笑った。 葬式だというのに、誰ひとり悲しい顔をする人がいない。若干の違和感を感じた。 伯父は、心筋梗塞だったらしい。 倒れてから見つかるまで一週間。腐敗が進んでいた。 僕が着いた頃にはもう伯父は灰になっていて、最期の顔を見ることはできなかった。 ただ、僕が呼ばれたのには理由があり、伯父が生前に書き残した遺書が見つかったということだった。 「伯父さんが住んどった古い洋館があったやろう?祐也は覚えとるかの?」 「ああ、山の上に建っとったあの?」 「それじゃ、その洋館を祐也に譲りたいって書いてある」 遺書を見て、僕は驚いた。 そこには紛れもなく、僕の名前が書いてあった。
/21

最初のコメントを投稿しよう!