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マスクを作ってくれる妖精 プーハット
洋一郎之介は朝、鏡の前で髪型をセットしていました。中学一年ともなると外見が気になり始める年頃です。洋一郎之介は、割と自分の顔に根拠の無い自信を持っているタイプの少年でしたが、どういう訳か今日は髪型がうまく決まりません。
「何だよ~。俺のどこがいけないっていうんだよっ! ああもうっ! 何だか全てが悪くなってる気がする!」
髪型が決まらないだけで、何となく奥二重の目や短めの睫毛や薄い唇全てが気に入らなくなってきました。
「もういいよっ! 今日はもう知らない!」
洋一郎之介は苛立ちのあまり持っていたブラシを投げつけました。するとどうでしょう。壁から「アイタッ」という声が聞こえてきたのです。
そしてそこからスススと七三分けの外人の顔が浮かんできました。
「ギャアッ! おおお……お化け~~!!」
「お化けなんかじゃないよ。俺の名前はプーハット。マスクを作る妖精さ。君の悩みは分かるよ。俺に任せなよ」
そう言うと、その外人の顔が真っ二つに割れて中から板ガムに顔がついたような奇妙な存在が現れました。
「さあ、これをつけてごらん。君の悩みである薄い顔は、とたんにディープインパクトのある顔に早変わりさ」
プーハットはさっきまで自分がつけていた七三外人のマスクを洋一郎之介に渡しました。
「ありがとう。プーハット。つけてみる!」
洋一郎之介は嬉々として早速そのマスクをつけて鏡を見ました。
「わ~! すっごいインパクト! これなら皆をビックリさせれるぞ~」
鏡の前でターンをしたりポーズを取ったりしていた洋一郎之介ですが、ふいにその濃い顔と学ランが合わない気がしてきました。そうすると、何だか全てが嫌になってきてポロポロと泣き始めました。
「プーハット……。この濃い顔、嫌だよぉ……。気持ち悪いよ~。やっぱり元の薄い顔がいい……。ねえ、お願い。元に戻してよぉ」
「ほらね、君は元々の顔が君らしいんだよ。その奥二重の目だって時々二重になるじゃないか。短い睫毛だって泣いた時もベタベタにならないし、薄い唇だってリップクリームの無くなりが遅くて経済的だよ。さあ、元にお戻り」
プーハットは洋一郎之介がつけている濃い顔のマスクを取り外しました。洋一郎之介は元通りの顔に戻りました。
「君の顔はこっそり石膏で型を取っておいたから、マスクを作らせてもらうよ。今度会う時は君のマスクをつけているかもね……」
「ありがとう! プーハット! 俺、自分の顔がやっぱり一番良いよ。かなり男前だってことが良く分かったし。もし次に君が俺のマスクで現れたら、俺きっと一目惚れしちゃうね」
プーハットはにこやかに微笑む洋一郎之介を満足気に見ながら出てきた壁へスススと消えていきました。
もし次にあなたがプーハットに会ってマスクを渡されたら、それは洋一郎之介のマスクかもしれませんね。
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