Ⅲ 甘いお別れ

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(――コーヒー1杯分なんて、気にするほどのことじゃないかな)  とは思いつつ。  さっきのカフェでも、せっかくのお店のコーヒーだけど、デカフェを選んだ。  久々にソファ席で優雅な時間を、という目論見も、帰宅後のやることリストや睡眠時間が頭に浮かぶと、はかなく消え去って。  そういえば、お店ですれ違った女の人、かっこよかったな。モデル体型にウェッジソールのサンダル。すっきりした顔立ちと、しなやかな長い髪。  服装は休日モードなのに、ノートパソコンが入ってるっぽい大きなバッグで、お店の人たちと仲良さそうに話してた。  持ち帰った仕事を、行きつけのカフェで片づけるのかな? ああいうの、できないんだよねえ私。人がいると、気が散っちゃって。  でも、もしも今の年までひとり暮らしだったら。たまにはあんなおしゃれな休日も、あったかなあ。 (――いや、ないでしょ)  ふわふわ現実逃避しかけた自分に、自ら突っ込みをいれた。  ちょっとまとまった休みがとれたら即、スニーカーに極限まで減らした荷物で海外に飛び出す。そんなやつだったじゃん、結婚前の私。  だいたい、顔も身長も、カフェのあの彼女とは別ジャンルだし。カフェごはんもいいけど、基本はアジアの屋台メシでしょ。  うんうんと、ひとりうなずいた。
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