Ⅲ 甘いお別れ

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 ……ま、不満というなら、実は私も。1つだけあるんだけどね。夫のコーヒーに関しては。  つい、連想してしまった。  ――お湯の、温度だと思うんだ。  惜しいんだよね。ほんのちょっと。もう少しだけ温度を下げれば、香りも甘みもうんと出るはずなのに。  その、ほんのちょっとが、何度言われても待てないみたい。せっかちな彼。  でもまあ、わざわざ豆から挽いて、手入れの面倒なネルドリップで淹れてくれるわけだし。そう目くじらたてるほどのことでもないか。  100パーセント自分好みのコーヒーは、たまのひとり時間に自分で淹れて飲めばいいや。とっておきの、ちょっといいお菓子と。 (……なんて日々とは、今日からしばらくお別れすることになったわけだけど)  われに返って、小さくため息をつく。
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