Ⅲ 甘いお別れ

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 まもなく始まった夕食、レシピ通りきっちり煮込まれたビーフシチューは、普段の私の時短料理とは違って、なんとも本格的な味で。  シチューに全力投球した結果、つけあわせのサラダもパンもないのはまあ、ご愛敬。足りなかったら、冷凍庫のごはんをチンしたっていいんだから。  食事の前には一通り洗いものも済んで、コンロまわりだってきれいになっていた。  ありがとね、急成長した夫よ。  デザートはもちろん、コーヒーゼリー。予想通り、コーヒー控えめで甘ーいやつ。  最後のひとさじをゆっくり飲み込んで、そっとお腹を撫でた。  これで最後。しばらくお別れ。 「ん。ヒナ、コーヒーおいしくできたねー」  思い出して、娘に声を掛ける。 「ほんと? おいしい?」 「おいしいよー」  ほんとに? と、立ち上がって顔をのぞきこんできた娘を、座ったままむぎゅむぎゅとハグしたら、ヒナの背後になぜか夫も現れた。  ん? 混ざりたくなった? ハグ。  「だよなー。パパに淹れてくれたんだもんなー、コーヒー」  ヒナの後ろから夫が、私と2人で娘をサンドウィッチするように両の腕をまわす。  その途端、 「やだパパ、三つ編み崩れちゃう!」  鼻の頭にしわを寄せて、ぶんぶんと頭を振る娘。  おーおー、生意気に。  ちっちゃい頭越し、夫と顔を見合わせて苦笑した。  さてと、それでは発表しますか。今年のわが家で、多分最高で最強の、スペシャルでハッピーなニュース。
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