第五話:家康とねね 前編

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第五話:家康とねね 前編

 三成が吉継と会っていた丁度その時、狸親父の家康も北政所、そう毛だらけで全身真っ黒な秀吉の正室のねねと面会していたのである。家康は今日もねねに会うなり「政所様ぁ〜!何度見てもお美しゅうござりまするぅ〜!」などとあからさまなお世辞を並べ立てた。 「いい加減におしよ!三河の旦那ぁ!こんなババアを揶揄うもんじゃないよ!でもアンタだけだよ。アチキの所にこうして訪ねてくれるのはさ!」  北政所こと猿の秀吉の正室であるねねが得意のアダっぽい口調で家康に答えた。家康はまじまじとねねを見たのであった。60間近なのに未だに女の色気を感じさせる女であった。流石信長さえとろけさせた女である。処分に困った信長は家来の秀吉に無理矢理結婚させたらしい。しかしどこまでも下層階級臭さが抜けていない女であろうか。天下人の妻であるのにこの品のなさ。着付けなんぞも胸元を広げて見せたりなんかして出家してるはずなのにどこまでも俗世の欲丸出しの女であった。家康は急に泣き出すと裾で涙を拭いながらねねに向かって言ったのである。 「政所様!何ともったいないお言葉か!そんな慈悲深いお言葉をかけてくださるのは今や政所様だけ!諸大名はこの内府が太閤殿下に後継者に指名されたのが不服なようで、皆この狸親父を無視していぢめているのでござりまするぅ〜!この家康は太閤殿下を立派に弔ってやりたいと四方八方手を尽くしておりまするのに誰も、誰も協力してくれませぬ!特に酷いのが三成殿で、太閤殿下の葬儀の相談にと三成殿のお屋敷に何回も使いのものをやりましたが、皆治部少殿はご不在と手ぶらで帰ってきます!居留守まで使われるとは!ああ!この家康!何故に三成殿に嫌われているのか?この家康が太閤殿下の後継者になったことがそんなに気に入らないのか!ああ!政所様!三成殿のご機嫌を治す方法はないものでしょうか!」  北政所ことねねは三成の名前を聞いて急に腹が立ってきた。茶々のことを思い出したからである。あのいけ好かない連中め!アイツらが餓鬼の秀頼を関白にしたいばっかりに旦つくの毛だらけで全身真っ黒な秀吉を騙くらかして秀次を殺したってのはこのねねさんがすっかりお見通しなんだよ!ああ!哀れな毛だらけで全身真っ黒なお猿さん!あんたはあの二人がちちくりあってるのを何で死ぬまで気づかなかったんだい?アチキがあの二人出来てるよ!みんな言ってるじゃないか!信長の姪っ子のヤリマン女とアンタのお気に入りの茶坊主は出来てるって!そしたらアンタは毛を丸めてアタシに投げつけてうるさい黙れ!あの二人がこの猿に隠れてそのような事をするはずがないとか言って!アンタどこまでお人好しだったんだい!あの二人に死ぬまで騙され続けて!ねねは我に返ると家康に茶々のことを聞いた。 「三成といえば、茶々はどうしているんだい?」  家康は茶々の名前を聞いた途端急にどぎまぎし始めた。顔中汗だらけである。しばらく言葉に詰まっていたがようやく口を開いた。 「ちゃ、茶々殿はこ、この狸親父がお嫌いのようで、なかなか会ってくれません。この家康も秀頼公に早く拝謁しなければと思うておりますが、そ、それも叶わぬのです!」  ねねは家康を意地の悪い目で見たのであった。  
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