第1話

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第1話

第1話 前回のあらすじ 呪われた一族の生き残りこと成瀬崇弘、本名「双葉崇弘」は9月25日いつも通り起きて、学校へ行きいつも通りの生活を送るはずだった。しかし、この時期には不自然な転校生「青葉楓」が現れた。彼女は秋山博人曰く特殊な異能士らしい。その日の放課後、博人は僕に意味のわからない忠告をしてきた。「今日の夜は気をつけろ。」と。その忠告を聞き流した僕だったが、夜になってその意味を理解することとなった。「妖」に襲撃されたのだ。絶体絶命だと思ったその時に現れたのは、転校生であり特殊な異能士の「青葉楓」であった。 「青葉…さん?」 突然の「妖」の襲撃。それから僕を助けたのは、今日転校してきた「青葉楓」だった。日本刀を携えて、先程まで「妖」がいた場所に立ち、こちらを見下ろしている彼女は、不敵に笑っているように思える。状況が理解出来ずにただ呆然と座り込んでいると、彼女は僕と同じ目線に座り込んだ。そして… 「大丈夫ですかー?危なかったですね。怪我とか、してませんか?」 と話しかけてきた。 「君は本当に青葉楓なのか?」 と昼間の感じから全く違う青葉楓に疑問を投げかけると彼女は少し笑みを浮かべながら肯定した。 「そうです。正真正銘、青葉楓ですよ。双葉崇弘さん。」 その瞬間、心臓が跳ね上がるような感覚がした。続いて脈が加速する。彼女は僕の正体を知っている。僕の本名を知っているのが何よりの証拠だ。彼女は何者だ?どうして僕の本名を知っている?十三年前の関係者か?一人で焦りながら考えを巡らせていると彼女の方からまた話しかけてきた。 「あのー、頭でも打っちゃいましたか?少しお話があるんですけど、ここじゃまだ危険だと思うので、場所を移したいんですけど…、立てますか?」 と言い、手を差し伸べてくる。僕は、「大丈夫、ありがとう」と言ってその手を取り、立ち上がる。 「それで、話って?」 「場所を移してから話しましょう。」 と言って歩き出した。仕方がないのでついて行く。そうして連れていかれたのは24時間営業のファミレス店だった。そして目の前には大量の料理が並んでいる。 「えーっと、青葉…さん?なんで僕たちは今、ご飯を食べているのかな?」 「ん?だって崇弘さん晩ご飯まだですよね。」 と口をもぐもぐさせながら頓狂な返事をしてきた。 「そうだけど、ってそうじゃなくて!話があるからって来たのに、なんでご飯食べてるのかってこと!」 立ち上がり少し大きな声で言ってしまったため、周りの視線が一気に集まるのを感じる。僕は、すいません、と頭を下げながら座る。そしてもう一度聞く。 「それで?なんで話があるはずなのに、ご飯食べてるんだ?」 そう聞くと、彼女はいま口に入っている分を、ごくん、と飲み込んでから答えた。 「それは、まぁ、助けた分のお礼ってやつですよ。崇弘さんを「妖」から助けた分のお お礼ってやつ。」 「それ自分で言うもんじゃなくない?」 でも助けてくれたのは事実なので良しとする。しかし、一つ、いやニつほど聞きたいことがあった。 「君の話を聞く前に、こっちから聞きたいことがあるんだけど、いいかな。」 「ん?いいですよ。」 と了承を得たので聞く。 「君は一体何者だ?何の目的でここに来た?」 「んー、そうですねぇ。目的についてはこれから話すんですけど、確かに自己紹介はし しておいた方がいいですかねぇ。」 そう言うと彼女は笑みを浮かべて言った。 「多分、こう言えば通じますよね。私、青葉楓は「罪人(つみびと)」です。」 『罪人』その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。 『罪人』 それはより強力な力を得るために、自らの親類を殺した異能士の呼称だ。彼女が?本当に? 突然の告白に何も言えずにいると、楓の方からまた口を開いた。 「私は10年前、ちょうど六歳の誕生日に、父と母、そして叔父を殺しました。」 立て続けに告白されていく楓の過去に、ただただ呆気にとられる。それからまた口を開こうとしたのでそれを遮る。 「わかったよ。君が罪人だと言うことは信じる。ただ、君が罪人である事と、この街に来たことに何の関係がある?」 すると楓は、そうですね、と言って持っていたフォークをお盆の上に置いた。 「では、本題に入りましょうか。私がこの街に来た理由をお話しします。」 そう言うと楓は姿勢を正し、改まった表情をして向き直った。 「一週間前の日曜日、成瀬家の神託により次の新月の夜、つまりは十日後の夜に、この街に八咫烏が来ると告げられました。」 「八咫烏だって!?」 そう言ってまた大声を出して立ち上がってしまった。僕はまた、すいません、と言って座る。 「危険度Aランク以上の怪物じゃないか。どうして。」 当然の疑問をぶつける。 「わかりません。ですが、成瀬の神託は絶対です。そして、八咫烏が来れば『闇』の依代であるあなたはおそらく狙われるでしょう。そこで、成瀬家はあなたに対して封印の一部解除の権限を与えることを宣言しました。」 「封印の…一部解除、だって?」 いかに相手が八咫烏だとしても、僕の中の『闇』の封印を解くなんて馬鹿げてる。世界を 壊す気か? 「もちろん任意の上で解除をしてもらいます。ですが、今回の八咫烏の襲撃ではあなたのその力が必要になるでしょう。よく考えて決断してください。」 そう言い終えると楓はハンバーグを少し大きめに切って頬張った。しかし、当然疑問が残 る。 「君が言っていることが全部本当なんだとしたら、その情報源はやっぱり成瀬家なのか?君は成瀬家とどんな繋がりがある。」 そう言うと楓はきょとんとした顔で首を傾げた。 「あれ?小夜さんから聞いているんじゃないんですか?」 「小夜さんから?何を?」 彼女は何を言っているんだ?どうして咲の姉の小夜さんが出てくる? 「なるほど。つまりは私について何も知らないと、そういうことですね?」 僕は頷く。すると彼女は少し口角を上げて言った。 「では、それは小夜さんに直接聞いてもらうとして。封印解除の日程は今週の日曜日、3日後です。よーく、考えてくださいね。」 そう言って楓は席を立つ。テーブルにはいつのまにか空になっていた皿が並んでいた。 「あ、お会計お願いしますねー♪」 言い終わると駆け足で店から出て行ってしまった。いったいいくらするんだろうかこの料 理たち。会計を済ませ店を出る。携帯を取り出し時間を見ると午後九時手前だった。 家に帰り鍵を開け中に入るとなぜか咲が部屋の真ん中の椅子に座っていた。合鍵は渡していない。ドアを開ける音に気づいたのかこちらを振り向く。 「お帰りなさい。青葉さんと何を話してたの?」 「どうして咲がここにいる。鍵は渡していないはずだ。そもそも不法侵入じゃないか。」 「あら、仮にも家族じゃない。それに鍵なんて私には関係ないわ。空間ごと入れ替えればいいんだもの。」 めちゃくちゃだ。家族だとしても義理だし、節度っていうものがあるだろう。 「まぁ、何を話してたのかは大体予想はつくけどね。」 組んでいた脚を組み直して話を続ける。 「どうせ姉さんの差し金でしょうけど。聞いたんでしょ?八咫烏やあなたの能力についてのこと。」 僕は頷かずただじっと見ていると咲はため息をついた。 「まぁ、いいわ。どんな風に言われたのか分からないけど、あなたは今まで通りでいなさい。変なことは考えず、私たちに守られていればいいの。」 それだけ言って咲は、それじゃ、と出ていった。 「今日は、色々ありすぎたな。」 少しだけぼやいて、もう寝ることにした。明日の朝シャワーを浴びればいいか。 翌日、シャワーを浴びるためにセットした目覚ましよりも早く起きた。不思議な夢を見ていた気がする。それがなんだったか思い出せないが悪い夢ではなかった気がする。布団から出て浴室に向かう。十月前の浴室は少し肌寒かった。シャワーを浴び終えラフな格好に着替えて居間に入る。昨日買った弁当と惣菜を温めテーブルに並べる。そういえば、こんなに早く起きたのはいつぶりだろう。時計は六時二十分を指している。ぼーっとしながら食べていると急に携帯電話が鳴り出した。画面には非通知と表示されている。誰だろうこんな早くに。不思議に思ったが、出てみることにした。 「もしもーし。あ、崇弘さんの携帯ですよね?」 聞こえてきたのは昨日聞いたばかりの声だった。 「青葉さん?崇弘だけど、なんで番号知ってるの?教えてないよね。」 「あー、それは小夜さんに聞きました☆」 また小夜さんかよ。あの人は俺をなんだと思ってるんだ。 「まぁまぁ、小さなことは気にしないでくださいよ。」 「決して小さくはないけどな!」 僕にはプライバシーがないとでも言うつもりか! 「そんなことより、昨日伝えた内容に不備があったので伝えますね。」 「昨日?あぁ、八咫烏の件か?」 不備とは何だろう。来る日にちが違うとかだろうか。 「崇弘さんの封印解除の件で日にちに間違いがあったので伝え直します。崇弘さんの封印解除は日曜ではなく、土曜日、つまり明日です。」 「は?」 明日? 「ですので返事は今日中にお願いしますね〜。それじゃあ、また学校で。」 そう言って電話は切られた。明日って、よく考えろって言ったのはそっちじゃないか。覚悟を決めるもクソもない。 「小夜さん、絶対図っただろ。」 呆れ果て愚痴をこぼす。時計はまだ六時半手前だった。 朝食を食べ終え歯磨きをして制服に着替える。まだちょっと早いが家を出る。少しでも気を紛らわしたかった。玄関を開けると、まるで予知でもしていたのか咲が待っていた。 「咲?どうして僕の家の前にいるんだ?」 「別に、たまたま早く起きたから様子を見にきただけよ。」 相変わらず無愛想な返事をしてくる。顔は整っているのにこれがあるから残念だ。 「それより、学校に行くんでしょ。さっさと行きましょ。」 そう言って先に歩き出す。僕は急いでそれに追いつく。しばらくの間、無言が続く。いつも歩いているはずの通学路がとても長く感じる。不意に無言を打ち破ったのは咲だった。 「崇弘、昨日私が言ったこと覚えてる?あなたの力についてのこと。」 「あぁ、覚えてるよ。それがどうした?」 「覚えてるならいいのよ。でも、もう一度言うわ。あなたは私に守られていればいいの。」 信号が青になり再び歩き出す。どうして咲は僕にこんなに釘をさすのだろうか。悶々と考えていると学校に着いた。校門をくぐり昇降口に入って下駄箱に靴を入れる。教室に向かおうとすると咲がまた口を開いた。 「じゃあ、私、先生に渡すものあるから先に教室行ってていいわよ。」 そう言ってスタスタと行ってしまった。言葉に従って教室に行く。教室に入って自分の机について携帯を確認すると茜からメールが来ていた。内容は、今日の課題を見せて欲しいとの事だった。軽い冗談を加えて返信をするとクラスメイト達が続々と入ってきた。時刻は七時半。なるほど、この時間にみんな登校してくるのか。僕がいつも起きる時間じゃないか。みんなが今日の僕くらい早起きなのかと感心する。始業の時間まで携帯を見て過ごしているとチャイムが鳴った。また何気ないいつもの日常が始まった。午前中の授業が終わり昼休みになる。昨日買ったパンを取り出し机に置く。パンを開けようとしたところで僕の日常には無いことが起きた。 「たーかひーろさん!お昼、ご一緒いいですかぁ?」 もはや聞きなれたこれとなっていたその声は、やはり青葉楓のものだった。 「別に、いいけど。」 断る理由もなかったので了承する。すると、やったー!、と言って正面の椅子に向かい合うように座った。楓は弁当を持ってきていた。 「あれ?崇弘さん、今日もパンですか?昨日もそうでしたよね?あっ、まさか毎日パンだったりします?」 ガンガン喋ってくる楓を無視してパンを食べ進める。今日のパンは二百円のくせになぜか三百グラムもあるパンだった。コンビニやるな。半分ほどを食べて牛乳を飲もうとストローをくわえると、楓が急に話題を変えてきた。 「ところで崇弘さん。覚悟決まりました?」 思わず吹き出しそうになる。何を考えているこいつは。この類の話は関係者以外には聞かれてはいけないのに。 「まだだよ。ってか、そんな急に決められるわけないだろ。そもそも、こんな場所でその話はするな。後で連絡するから。」 そう言ってまた食べ始める。楓はつまらなそうに、分かりましたぁ、と言って弁当をつまみ始める。楓の弁当は彩り豊かだった。食べ終えるまで無言が続いた。傍目にはどう映っていることだろう。頼むから変な噂は勘弁して欲しい。弁当を食べ終えた楓は立ち上がって一つ伸びをした。それから僕の目線まで顔を持ってきて、こう言った。 「では、連絡お待ちしてますね!」 顔を近づける必要はあったのだろうか。言い終えた楓はどっかに行ってしまった。僕は残っていた牛乳を飲み干した。 午後の授業が終わり、帰宅の準備をする。担任のHRが終わり、いよいよ帰宅だ。鞄を背負い教室から出ると携帯が鳴った。画面には博人の名前がある。電話の内容は空き教室への呼び出しだった。旧館三階にあるその教室は以前は何かの部室だったらしい。教室に入ると、すでに博人は待っていた。 「やぁ、昨日ぶりだな。昨夜は大変だったそうじゃないか。生きてて良かったな。」 「ずいぶんな言い草だな。ってか、知ってたなら助けろよ。お前の仕事だろ。」 博人は成瀬家から僕の護衛を言い渡されている。それなのに昨日は忠告するだけで何もしなかった。護衛失格だろ。楓が来なかったら死んでただろう。 「まぁまぁ、そう言うな。代わりにあの転校生が来たじゃないか。いろんな情報をもってな。」 博人は何か知っている風だった。いや、もしかしたら知らないのは僕だけかもしれない。小夜さん、なんで僕には何も言わないんだろう。小夜さんへの嫌悪を募らせていると、博人が、座れ、と促してくる。僕はそれに従い博人の隣に座る。顔は合わせない。 「昨日、青葉楓からどこまで聞いた?」 博人が聞いてくる。 「どこまでって、八咫烏の事とか、僕の封印の事とかだよ。」 それに答える。博人はため息をつき、全部か、と言った。 「お前は封印についてどう思った?」 「どうって、正直迷うよ。この力は、下手をすれば世界だって滅ぼせるかもしれない。そんな力の一部を解除するなんて、普通に考えればしたくないな。」 そう言うと博人は、だろうな、と言った。少しの間、沈黙が訪れる。それを破ったのは僕だった 「なぁ、博人。もしも、僕が力を制御できずに暴走したら、どうする?」 「んー、そうだな。その時は、俺が責任を持って殺してやるよ。」 「言うと思った。」 二人して笑う。 「まぁ、でも博人に殺されるならまぁいいかなぁ。」 そう言って席を立つ。 「決めたのか?」 博人が聞く。僕は頷く。 「もう、このままっていうのは嫌なんだ。僕だって力になりたい。」 博人は、そうか、とだけ言った。僕は教師の扉に向かう。扉を開いたところで、博人が口を開いた。 「崇弘。俺にお前を殺させてくれるなよ。」 「僕は誰にも殺されないよ。」 そう言って僕は教室を出た。下駄箱に行き、靴を履いて外に出た。グラウンドからは運動部の声が聞こえてくる。校門を出て右に曲がると、そこには咲が立っていた。その横を通ろうと歩き出す。咲を通り過ぎてちょっと歩いたところで、見えない壁に行く手を阻まれた。結界だ。成瀬家が得意とする妖術。振り返ると先がこちらを睨みつけていた。 「さっき、博人から電話で聞いたわ。崇弘、あんた何を考えているの!あんたは私たちに守られていればいいの!私たち以外にあなたを守れる人間は存在しない!仮にあんたが死ねば封印は強制的に解除されるのよ!それがどういう事か分かってるの⁉︎」 咲は激昂する。相当怒っているみたいだ。僕の胸ぐらを掴み、大声を出す。 「私、言ったわよね。変なことは考えるなって!あなたは戦わなくていいって!なんで分かってくれないの⁉︎あんたは死んじゃいけない。寿命でその命を終わらせなければいけないの!分かってる⁉︎」 胸ぐらを掴む手にさらに力が加わるのが分かる。どうにかしてそれを振りほどく。咲は肩 で呼吸をしているかのように上下に肩を揺らしている。荒い息がこちらにも聞こえてきそうだ。先程から、なんで、と繰り返す咲は明らかに平常心ではない。 「あのさ、僕だって色々考えたんだよ。それで出した結論なんだ。そりゃあ、咲たちに守ってもらうのが一番安全だろうけど、それじゃダメなんだ。」 諭すようになるべく優しく言う。しかし、咲の怒りは収まらない。 「分かってるならなんでなの⁉︎そのままでいいじゃない。あんたが死んだら世界中が不幸になるのよ!」 「だからだよ。このまま守られていたって、咲たちを超える『妖』が来たら、どうせ僕は死ぬだろう。だったら僕も一緒に戦って死なないようにすればいい。」 精一杯優しく言う。咲がまた僕の胸ぐらを掴む。 「そんなの来ないわよ。来ても私が絶対に殺してやる。」 声が震えている。咲の目からは涙が溢れていた。咲の涙を見たのは初めてだった。 「咲、覚えているか?僕が最初にお前の家に行った時の事。」 「覚えてるわよ。それがどうしたの。」 胸ぐらは解放されない。 「咲は言ってくれたよな。命を賭して僕を守ってくれるって。あの時、すっげえ嬉しかった。周りはみんな敵ばっかりだったからさ。」 「言ったわ。だからこうして今もあんたを守ってる。」 より一層掴む手に力が入る。 「それで、思ったんだ。このままでいいのかって。だからさ、恩返しってわけじゃないけど、今度は僕に咲を守らせてくれないかな。」 何も言い返してこない。まさか、さらに怒らせただろうか。すると、咲は僕の胸ぐらを離した。 「もういいわ。どう言っても、もう変わらなそうだし。」 その代わり、と言って人差し指で僕を指してくる。 「決めたんだったら、絶対に死ぬんじゃないわよ。」 その顔には、もう涙はなかった。咲は振り返り、歩いて行ってしまった。 家に帰り楓に電話をかける。三コール目で出た。 「はいはーい!こちら青葉楓です!電話してくるってことは、返事、聞いちゃいっていいんですよね?」 相変わらずのテンションで聞いてくる楓に若干の嫌悪を覚える。しかし要件は楓が言った通りなので、そうだよ、と返事をする。 「んじゃ、聞きますね。崇弘さん。あなたは八咫烏退治のため、自らの封印の一部を解除しますか?」 深呼吸をする。決心は揺るがない。 「僕は、力が欲しい。いつも守られてばっかりだった。でも、もう嫌なんだ。だから僕は封印を解除したい。」 「いい返事です。」 電話越しに楓が不敵に笑っているのがわかる。 「それでは、明日の朝七時に山の麓の神社に来てください。ではまた明日、よろしくお願いします。」 それで電話は切れた。七時か、早いな。今日も早く寝るか。昨日買った惣菜の期限が切れていないことを確認して電子レンジにかける。冷凍してあった白飯も続けて電子レンジにかけて、冷蔵庫から卵を取り出す。ご飯を早急に済ませ、風呂を沸かしている間に出ている課題を終わらせる。風呂に入り、着替えて九時にはもう布団に潜った。いつもよりかなり早い時間で眠れるか心配だったが、杞憂に終わって助かった。 次の日、アラームの音で目がさめる。久々に熟睡というものをした気がする。時刻は六時。寝癖を直し、朝食を軽く済ませ着替える。時刻は六時半、神社までは歩いて十五分くらいだからまだ時間はあるが、家を出る。戸締りをしっかりとして歩き出す。自転車を使えば良かっただろうか。まぁ、どちらでもいいか。頭をこれからのことに切り替える。今日、僕は自分の『闇』と真正面から向き合うことになる。耐えられるだろうか。今更になって少し震えてきた。けど、もう引き返すことはできない。僕は決めたんだから。あれこれ考えているとすぐに神社に着いた。階段を登り、鳥居をくぐって境内に入る。青葉楓はすでに神社で待っていた。 「あっ、崇弘さーん、こっちでーす。こっちこっちー!」 楓は本堂の階段に座って手を振っていた。 「ちょっと時間より早いですけどまぁ、いいですね。」 楓は真剣な表情を作って僕の顔をじっと見つめてきた。そして確かめるように言った。 「崇弘さん。気持ち、変わってませんよね。」 僕は頷く。楓は、わかりました、と言って立ち上がる。 「では始めましょうか。」 そう言って神社の地面にチョークで陣を書き出した。数分で書き終わったその陣は、とても複雑な構造をしていた。おそらくは成瀬家秘伝の何かだろう。 「では、その陣の真ん中に正座で座ってください。」 言われるがままに従う。 「目を瞑って、手を円を作るようにお腹の前で合わせてください。」 言葉に従って目を瞑り円を作る。すると楓が何かぶつぶつと言い始めた。何を言っているかは全く聞き取れないが、何かの詠唱であることは間違いないだろう。数分に及ぶそれは最後に大きめの声で叫ぶことによって終わった。 「はい、これで終わりです。封印は解除されました。」 「え?」 拍子抜けだった。僕の覚悟は何だったのだろう。こんなにあっけなく、あっさりと終わってしまった。念のため確認する。 「本当にこれで終わりなのか?」 楓は頷く。 「はい。これで終わりです。」 二度目の肯定に全身の力が抜けるのを感じる。虚無感とも安心感とも取れぬ感情が襲ってくる。だから、楓の言葉を聞き逃した。 「だから、死んでください。」 気付いた時にはもう遅く、どこに持っていたのかわからない日本刀が、僕の眼前に迫っていた。
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