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霧の魔獣の伝承
娘よ、力なき乙女よ。おまえは決して森の深きへ踏み入ってはならない。
例え、父母のために泉で水を汲まねばならずとも、例え、愛する男のために若芽を摘まねばならずとも、決して森の深きへ踏み入ってはならない。
なぜなら、そこには魔が棲まう。魔境より出でし、霧の魔獣が棲まう。
霧が立ちこめたら、脇目も振らずに道を引き返しなさい。愛する者の姿を見つけても、後を追いかけてはならない。
雨音が聞こえたら、耳をふさぎなさい。甘美なるそのささやきに、惑わされてはならない。
視界を奪われ、ぬかるむ大地に足を奪われても、気をたしかにもって家路を急ぎなさい。
しかし、娘よ、力なき乙女よ。おまえがもしも蹄の音を聞いたのなら、そのときは覚悟を決めなくてはならない。フィアーラフカは、すぐそこにいる。
娘よ、力なき乙女よ。おまえが悪魔の角を掲げる馬を見たのなら、あとは神に祈るより他はない。フィアーラフカはおまえを森にとらえ、未来永劫、手放しはしないだろう。
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