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EP.0
「貴様は罪を犯した。よって、貴様を奈落へ堕とす」
神は私を罪人と見なし、奈落へ堕とした。私と、何人かの罪人の天使は堕とされた。
憎き神よ。いずれ復讐してやる。
千年後、待っていろ、ミカエル。
私は貴様を奈落へ堕としてやる。
天界ごと、支配してやる。
「残念だよ、××。お前は馬鹿な事をしないと思っていたのに。」
「ミカエル、貴様……」
「嗚呼、悲しく、罪深い罪人ども。奈落へ堕ちるがいい! そして黒く染まり、その身の罪の重さを思い知り、後悔の念に圧し潰されればいい」
ミカエルという大天使は私よりは美しくは無いが、私と並ぶ三大天使として名が知れている。ミカエルとは分かり合えぬ仲だ。このまま、彼も道連れにしてやろうと思った。堕とされる瞬間、私を見下している彼の羽を握り、道連れにしようと思った。しかし、彼を助けようと他の天使が邪魔をした。結果、ミカエルの六枚の羽の内、一枚がちぎれた。ミカエルは苦しみ、後ずさる。
「××、貴様……!」
「貴様も苦しむがいい。いつか、私が復活した暁には、貴様を奈落へ堕としてやる」
覚えていろ、待っていろ、とそう言った。
見えなくなるまで、ミカエルは私を睨みつけていた。
深い谷のような場所を抜け、大地に叩きつけられた。その衝撃で、私の十二枚の美しい羽は千切れ、六枚に減った。その六枚は、黒く染まった。天使の輪は消えた。
私の美しかった羽が、悪魔の羽に変わった気がした。心がだんだん黒くなっていく気がした。私はいつか、サタンと呼ばれるようになった。
「あ! おかえりなさい、サタン様!」
「ああ、今戻った」
最近「ヴァルデ・ルート」に堕ちてきた天使だ。私ほどではないが、とても美しい天使だった為、奴|隷として引き取る事にした。今は喜んで掃除洗濯などをしてくれる。
「サタン様、サマエル様が」
「知っている。貴様は他の部屋の掃除でもしていろ」
「承知しました!」
拙い箒を両手で持ち、「はい」と快く返事をした。実に気持ちが良い。私は大部屋の奥にある椅子に腰かけた。大きく立派な椅子。王の器である私しか座れぬ椅子。嗚呼、心地が良い。
「おい、ルシファー」
「なんだ、サマエルか」
サマエルは赤い蛇の姿で私の身体にまとわりついてきた。正直気持ちが悪い。サマエルは私と同一である存在。そして、真の王の器である。私とほとんど瓜二つの姿をしている為、人間は同一人物だと思っているようだが。一緒にしてもらっては困る。
「ルシファー、例の軍団の件どうなっている?」
「私は貴様に任せたつもりだったが」
「そうだったか? しかし私は盲目で」
「知らん。貴様が言い出したのだろう?」
「……まあ、いいだろう。後で文句を言うなよ」
「私はそんな事はしない」
「しかしだな、ルシファー。あと九百年後に戦争だろう? 間に合うと思うか?」
「間に合わせるさ。九百年もあるのだろうが」
「そうか。……分かった。出来る事は全力でやらせてもらおう」
サマエルは私から離れると、光を纏った。眩しい光が消えたかと思うと、そこには私とほとんど似た容姿の悪魔がいた。
「では、行ってこよう。サタン、そこで大人しく待っているがいい」
「ああ、期待しているよ。サマエル」
大部屋の扉はゆっくりと閉まった。
私には広すぎるこの部屋。何故だか落ち着かないので、天使の様子でも見に行くことにした。
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