課長の気持ち

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課長の気持ち

 翌日曜日。 私たちは、映画を見にやってきた。 映画好きな課長に合わせたっていうのもあるけど、単純に私が課長の好きな世界に一緒に浸ってみたかったから。 「晶はどんなのが好き?」 チケット売り場で課長に尋ねられる。 「スプラッタでなければ、なんでも大丈夫  ですよ。  課長は、どんなのが好きなんですか?」 特に拘りのない私は、課長に聞き返した。 「俺はなんでも見るけど…  じゃ、あれは?」 課長が指差したのは、最近公開したイケメン俳優が主演の必ず泣けると評判の邦画。 「あ、いいですね。  私、彼好きなんですよ。」 ルックスもいいが、演技力にも定評がある彼は、テレビドラマでも外れることがない。 「え… じゃあ、やめようかな… 」 課長は、急に声のトーンを落としてぼそっと呟いた。 「え? なんでですか?」 今、これがいいって言ったのに。 「……… 晶が俺の隣で他の男に目をキラキラ  させてるのを見るのはちょっと… 」 は? それって… 「課長?  私、男性として彼が好きって言ったわけじゃ  ありませんよ?  俳優として好きなんです。  ドラマでも、彼が出てる作品って、  おもしろいのが多くありません?」 何、この言い訳みたいなの。いる? もしかして、課長って、独占欲強め? 課長は、私をじっと見て、 「ほんとに?」 と聞く。 「ほんとです!  じゃ、私、チケット買ってきますね。」 私が列に並ぶと課長も隣に並んだ。 「チケットは俺が買うから、飲み物頼んで  いい?」 「はい!  何がいいですか?」 ふふっ チケット代は出させてくれないけど、飲み物代は出させてくれるんだ。 嬉しい。 「んー、コーラかな。  晶は、ポップコーンとか食べる?」 「あれば食べます。  課長は?」 「食べるなら、塩味かな。  甘いのはちょっと… 」 と言葉を濁す。
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