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私が会議室で待つこと5分、速水課長がやって来た。
「悪い、電話がかかってきて。
待たせたな。」
「いえ。」
私は首を横に振って、クリアファイルから白い封筒を取り出す。
「これを… 」
退職願と書かれたそれを見た速水課長は、
はぁぁ…
と盛大にため息を吐いた。
「理由を聞いてもいいか?」
速水課長は、封筒の中を確認することなく、尋ねる。
「……… 一身上の都合です。」
プライベートな泥沼をこんなところじゃ話せない。
聞かされた方も迷惑だろう。
なのに…
「どんな都合だ?
どうしても会社を辞めなきゃいけない都合が
あるなら、言ってみろよ。」
いつも優しい速水課長が、なぜか今回ばかりは全く譲歩してくれる様子がない。
「それは…
プライベートなこととしか言えません。」
私が答えると、
「じゃあ、却下。
これは、俺が預かっておく。」
「えっ!?」
「俺を納得させられるだけの理由を
言えるようになったら受理してやる。」
と速水課長は、にやりと笑った。
「そんな… 」
速水課長は私をひとり残し、会議室を出て行った。
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