[起]セイテン ノ ヘキレキ

1/1
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

[起]セイテン ノ ヘキレキ

 雨粒、ぽつり。 天から落ちて、彼女の足元を濡らす。  掌を上に向けて、ふと仰いだ空は鉛色(にびいろ)── 垂れ籠める雲に陽光(ひかり)は遮られ、蒸れた空気が、いっそう不快に纏わりつく。  雨粒、ぽつり。また、ぽつり。 乾いたアスファルトに、水玉模様を描いてゆく。 夏の陽射しに焼けた鋼も、天の洒浄(しゃじょう)に熱を奪われ、急激に冷やされていった。 あまりにも突然に、天を貫く霹靂(へきれき)。 それが忽ち、篠突く雨に変わる。  足早に過ぎる人の波に急かされて、彼女も又、気忙しく其の場から逃れた。 行く宛も定めず… 唯、雨の礫を避ける様に。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!