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異世界でも無職です
あまりにもポンコツなエミリア。
このまま一人にするわけにもいかず、とりあえず弟子になる事になった。
「キミは今日からボクの……じゃなくて……く、くははは! 我が盟約により、お前は我が下僕にぃ……えっと……あのぉ……うぅ〜……」
「どうしたんだ? 続けろ」
エミリアの顔は真っ赤になっている。
冷ややか目で見られると、我に戻るんだろう。
恥ずかしくなるなら、辞めとけばいいのに。
「……キミ、ノリが悪いよ? 師匠なんだよ、ボクは!」
「いや、師匠を諌めるのも弟子の勤めだろ」
ぷく〜と、エミリアの頬が膨れあがっていく。
子供みたいに口を尖らせて。
やれやれだぜ。
「で、弟子って何をやればいいんだよ。結局のところ」
「あ……えっとぉ……とりあえず、キミの職業を確認しなきゃ、かな」
「職業ゥ?」
この世界では、十二歳になると神殿や教会で職業を、神の加護だかで授かる。
例えば、職業が戦士になれば、多様な武器を扱えるようになったり、筋力や耐久性が上がる。
魔法使いならば、自身の魔力が上がりいろんな魔法が使えるようになる。
選ばなかった職業でなくても武器や魔法は扱えるそうだが、専門職の職業にはどうしても及ばないそうだ。
あと職業には、レベルという概念が存在する。
実践経験や一定数以上魔物を倒して、教会や神殿に報告すればレベルが上がる仕組みだ。
ちなみにレベルが上がると、上位職業に転職できる。そうエミリアが教えてくれた。
俺の職業が分かれば、育成の方針が決まるらしい。
「で、俺に職業を選ばさせるってことか」
「場合によっては、ね」
「場合? それって?」
エミリアはクスッと微笑むと、俺の頭に自分の額を当てる。
ぬ! 近い近い近い!
緊張で心臓がドキドキする。
今更だけど……さすがエルフ。
肌は透き通るように白いし、まつ毛が長い……何より、いい匂いがする。
若草のような匂い、とでも言うのか。
「……キミは他の世界から来た存在。だから……こちらに来た時に、既になんらかの職業を与えられている可能性があるんだ」
可能性がある。
ずいぶんと確信的な言い方だが……エミリアは何か根拠があって言ってるのか?
「もしかして……そんな事例があるのか?」
「あるよ。勇者召喚……他の世界から勇者の資質を持った人間を召喚した場合。
その人物には、勇者という職業が付与されたって言う記録があるんだ……」
なるほど……俺の場合は勇者召喚とは違うが、他の世界から来たって、条件は同じなんだ。
「じゃ……やるよ……」
――鑑定!
彼女が呟いたと同時だった。
ずわっと俺の中を、何かが通り抜けていった感覚があった。
「……終わったのか……?」
「うん……終わったんだけど、ね」
エミリアは眉根を寄せている。
「あの……なにか問題でもあった?」
「……キミの職業を鑑定したんだけど……職業が無職って、なんなんだい!?」
職業が……無職? うん? 聞き間違えたかな?
「……冗談だよな? 無職って言うのは……なあ、エミリア?」
「ボクは冗談は言わないよ? ホントに無職なんだ……それにレベルが99って……どうなってるのか、ボクが知りたいよ!」
目の前が真っ暗になった。
エミリアも初めてのことらしく、困惑しているようだ。
え、なにか? 俺は元の世界でも無職、異世界でも無職なのか!?
しかもレベル99って……俺は異世界でも無職を極めちまったてか!?
誰も好きで、八年も無職ニートをやっていた訳じゃないってのに……異世界で就職できたらなぁって期待していたのに!
こっちに来てまで、無職は無いんじゃないかなぁ?
異世界の神さま! あんたはなんて薄情なんだあ!!
「あと、だね……キミのスキルも確認したんだけど……」
まだ、なにかあるのか。
言い淀むエミリアに、俺は不安しかない。
「ボクも見たことがない文字なんだよ。キミにも見てほしいんだ」
再び腰の袋から紙とペンを取り出したエミリアは、何かを書き込んでいる。
「これ、なんて読むんだい? キミなら分かるよね?」
紙に大きく書かれた文字。
そこには、『Error』と綴れれていた。
「エラー……俺のスキルは、エラーなのか……?」
ショックだ。無職ってだけでもショックなのに。
もっと、カッコいいスキルにして欲しかった。
なんだよ、エラーって……俺の存在自体を否定か!
「……そんなに落ち込んだ顔して、どうしたんだい?」
そんなに落ち込んだ顔してるのか。
まあ無職レベル99とエラーじゃ、落ち込みもする。
「大丈夫だ。えっと、それはエラーって読むんだ。意味は……たしか誤りとか、間違いとか……そんな意味だったな」
「誤りか。ふむふむ……カケルくん、一回スキルを使ってみておくれよ?」
「スキルを? どうやって使えばいいんだ?」
「簡単だよ。スキル名を使用って唱えるだけさ。声に出しても出さなくても使えるんだ」
スキルを使うのって、意外と簡単なんだな、
もっと魔法みたいに複雑な詠唱が必要かと思ったんだが……よし、使ってみるか。
――Error使用!
……あれ? 特に変わった様子はないな。
自分の体を触ったり、手足をみたりするが……何も変わった感じはない。
「どうだい、カケルくん。何か効果は現れたかい?」
「……何も起こらないけど……」
エルミアはまた難しい顔をすると、俺の全身を触り始めた。
「ちょ……くすぐったいだろ! 辞めろって!」
「おっかしいなぁ……ホントに何もないね……」
俺、なんでこの世界に来てしまったんだ?
はぁ〜……こんな惨めな思いをするなら、向こうの世界にいた方が良かったんじゃないか?
落ち込む俺の肩に、エミリアは優しく手を乗せた。
「そう悲観しないでよ、カケルくん。職業が無くても、特訓次第で一応……強くなれるんだよ。だから元気だしなよ?」
一応か。
たしか専門職じゃなくても、そこそこ戦えるんだったな。
……そうだな、嘆くのは辞めよう。
とりあえず戦えるようになれば、異世界にいるかもしれない、アンナや他の連中を探すことができるんだ。
「よし! エミリア。早速、特訓しようぜ」
「うん。さすがボクの弟子だ。そのやる気があれば、なんとかなるよ」
そう言うとエミリアは、腰の袋から革製の鞘に納まった剣を取り出して、俺に手渡したきた。
「これはボクが昔使っていた剣だよ。なんの変哲もないただの剣だから、気兼ねなく使っておくれよ」
おお……リアルな剣か。
ずっしりとして、結構重いな。
革製の鞘から剣を抜くと、俺はゲームとかアニメで見たような格好で構えてみる。
我ながら様になってる……ような気がする。
(ポーン! おめでとうございます。武器を装備してことにより、新スキル『下位戦士』を獲得しました)
……はい? 今の携帯の着信音みたいのと、音声ガイダンスは……なんだ?
エミリアには聞こえていないのか? 俺の頭の中だけに聞こえたってことか?
「どうしたんだい、カケルくん。また何かあったのかい?」
俺の様子に気づいたエミリアが、心配そうに声をかけてくれる。
どれだけ心配症なんだ。
無職でスキルが変だったから、弟子が心配になるのか。
「……なんか今、下位戦士がなんとかって、声が聞こえたんだが……」
「ホントかい!? そんなことが……じゃない。えっと〜……く、くはははは! 我が神……暗黒邪神のチカラならばそれくらい……うぅ〜……またそんな目で、ボクをみるぅ……」
「……ずいぶんと加護が遅い神さまだな」
涙目で何か言いたそうに俺を睨んでいる。今はそれは放っておこう。
「うぅ〜ノリが悪い弟子だぁ……まあ、いいや。ボクの手を握ってくれるかい?」
「に、握ればいいのか?」
無言で頷くエミリアの小さな手を握った。
彼女もキュッと力を込めて、握り返してきた。
「じゃあ、行くよ……転移!」
「うぉ!?」
体が、ふっと宙に浮いた感覚に陥った。
次の瞬間。俺とエミリアは庭園じゃない場所に立っていた。
どこだ、ここは……外じゃない事はたしかだ。
空の代わりに石造りの天井があるからだ。
「さあ着いたよ、カケルくん。ここがテメングラトの塔の第一階層だよ!」
どうやら、俺はエミリアの魔法で、塔の最下層に連れて来られたようだ。
何を始めるのかは分からない。
「始めるよ。カケルくん……キミの特訓開始だ!」
俺の不安をよそに、彼女はそう告げた。
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