34人が本棚に入れています
本棚に追加
「なら確かめてみればいいだろ。お前の母親、病気なんだってな。本当にそうなのか? やましいことがあって隠してるだけなんじゃないのか? 会って、自分の目で確かめて来いよ」
高揚して甲高くなった声でコッペリアが叫ぶ。ほら、ほらと僕を煽る。煽る声に負けじと、僕も大声を出した。
「それは出来ない。だってみんなの言っていることの方が正しかったら、はやり病がうつってしまうかもしれない。それが君の目的かもしれないじゃないか」
声がかれて、のどが痛い。
急にコッペリアが静かになる。表情もすっと消えた。
「驚いた。もっと盲目的だと思ってたのに」
バカにされているのだろうか。言い返してやろうと息を大きく吸い込んだちょうどその時、キィィっと扉の開く音がした。
「誰かいるのかい?」
はっとして扉の方を見た。そこにはお兄様が立っていた。
「フランツ? どうしたんだい、こんな夜中に」
お兄様は、僕のそばに立っているコッペリアをちらりと見ることすらせず、僕だけを見ていた。本当に、僕にしか見えないようだった。
「大きな声が聞こえたと思ったんだけど、何かあったのかい」
「えっと……」
何と言えばいいのか迷った。コッペリアのことを話した方がいいのだろうか。でも、他の人に見えていないのならば、信じてもらえないのではないか。コッペリアの言う通り、錯乱したと思われるかも知れない。ただでさえ心配をかけっぱなしなのに、これ以上迷惑をかけたくない。
決して、みんなが嘘つきだという話を信じた訳ではない。心配をかけたくないから言いたくないんだ。
「虫がいて驚いたとでも言ってごまかせ」
コッペリアが耳元でささやく。
「虫が飛んできて……驚いたんです」
コッペリアの言う通りにするのは屈辱的だった。でも他に、何も思い浮かばなかったのだ。
「そうか。侵入者でも現れたのかと思って驚いたよ」
「ごめんなさい」
「何事もなければいいんだよ」
お兄様が微笑む。
「眠れなかったのかい?」
僕はこくりとうなずいた。
「私もね、眠れない時にはよくここへ来るんだよ」
「お兄様も?」
「兄弟だからかな、やる事は一緒だね」
最初のコメントを投稿しよう!