コッペリア

5/15
前へ
/129ページ
次へ
 「なら確かめてみればいいだろ。お前の母親、病気なんだってな。本当にそうなのか? やましいことがあって隠してるだけなんじゃないのか? 会って、自分の目で確かめて来いよ」   高揚して甲高くなった声でコッペリアが叫ぶ。ほら、ほらと僕を煽る。煽る声に負けじと、僕も大声を出した。  「それは出来ない。だってみんなの言っていることの方が正しかったら、はやり病がうつってしまうかもしれない。それが君の目的かもしれないじゃないか」  声がかれて、のどが痛い。  急にコッペリアが静かになる。表情もすっと消えた。  「驚いた。もっと盲目的だと思ってたのに」  バカにされているのだろうか。言い返してやろうと息を大きく吸い込んだちょうどその時、キィィっと扉の開く音がした。  「誰かいるのかい?」  はっとして扉の方を見た。そこにはお兄様が立っていた。  「フランツ? どうしたんだい、こんな夜中に」  お兄様は、僕のそばに立っているコッペリアをちらりと見ることすらせず、僕だけを見ていた。本当に、僕にしか見えないようだった。  「大きな声が聞こえたと思ったんだけど、何かあったのかい」  「えっと……」  何と言えばいいのか迷った。コッペリアのことを話した方がいいのだろうか。でも、他の人に見えていないのならば、信じてもらえないのではないか。コッペリアの言う通り、錯乱したと思われるかも知れない。ただでさえ心配をかけっぱなしなのに、これ以上迷惑をかけたくない。  決して、みんなが嘘つきだという話を信じた訳ではない。心配をかけたくないから言いたくないんだ。  「虫がいて驚いたとでも言ってごまかせ」  コッペリアが耳元でささやく。  「虫が飛んできて……驚いたんです」  コッペリアの言う通りにするのは屈辱的だった。でも他に、何も思い浮かばなかったのだ。  「そうか。侵入者でも現れたのかと思って驚いたよ」  「ごめんなさい」  「何事もなければいいんだよ」  お兄様が微笑む。  「眠れなかったのかい?」  僕はこくりとうなずいた。  「私もね、眠れない時にはよくここへ来るんだよ」  「お兄様も?」  「兄弟だからかな、やる事は一緒だね」
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加