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コッペリアと言い争っていら立っていた僕の心が、温かいものに塗り替えられる。兄弟だから一緒、その言葉が他人みたいに感じていた距離を短くしてくれたような気がした。
「誰かが起きていたら、ココアでも作ってもらおうか。さあ、行こう」
「はい」
僕はお兄様の後に付いて植物園を出ようとした。開けられた扉から見える廊下は明かりさえも飲み込むほどの漆黒の闇で、こんな恐ろしい所を一人で歩いてきたのかと思うと急に怖くなった。ランプを持つお兄様から離れないように、そばにぴったりとくっつく。
扉をくぐって廊下へ出た時、コッペリアの声がした。
「まぁ、いいさ。どうせお前はもう、人の話をうのみにできなくなっただろうからな」
僕は振り向き、コッペリアを睨みつけた。コッペリアは笑っている。その姿を視界から消すように、僕は扉を急いで閉めた。
翌朝、朝食は一人だった。お父様もお兄様もお忙しい。食事中、ベルトさんが横にずっと立っていたので、何だか申し訳なくて急いで食べ物を口の中に詰め込んだ。
「あの……ベルトさん」
「何でしょうかフランツ様」
「お母様の具合はまだ悪いのですか? 良くなるんですよね」
ベルトさんは、僕から目線を外す。
「申し訳ありません、私には医学の知識がないので何とも……お医者様に訊いておきますね」
「ありがとうございます」
治ると断言してもらえなかったのは不安だったけど仕方がない。ちゃんと嘘をつかないで答えてくれたんだ。
食事が終わったら、すぐに準備をしなければいけなかった。今日は専属の教師が来る日だ。教師が来る日は午前中に三時間、午後に二時間、休憩をはさみながらの授業があった。一対一でみっちり勉強して、三時過ぎにようやく終わる。勉強はやりがいがあるけれど、字を書いていると治ったはずの腕の傷が痛み出すのが辛かった。
授業が終わり、自室で頭をくらくらさせながら算数の復習をしていると、ベルトさんが訪ねてきた。
「フランツ様、これを受け取って下さい」
そう言って手に持っていた封筒を僕に差し出した。差出人を見ると『母より』と書かれていた。
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