コッペリア

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 「さっそく母親のことが気になりだしたんだな」  「子供が母親の心配をして、何がおかしいの」  言い返してみたものの、コッペリアは「うんうん」とバカにしたように相づちを打つだけで、明らかに聞き流している。  「君は本当に何なの。何で僕にからむの。幽霊? それとも……」  「その質問は無意味だろ。俺が何を言っても、お前は信じないだろうからな」  確かに、何を言われても嘘にしか聞こえない。  「あぁ、でも一応これだけは言っとくな」  コッペリアは、行儀悪く机の上にどんと座った。彼女には恥じらいなどないらしい。  「俺はお前の味方だぞ?」  そう言い放ったコッペリアの表情は、何かを企んでいるかのようにニヤニヤ笑っていた。台詞に全く合っていない。  「その言葉、信じると思いますか?」  「思わないね。でも、そう言っておいた方が面白そうだろ」  コッペリアは、僕が迷うのを楽しんでいるんだ。大丈夫、僕は絶対に惑わされない。  「そうだ、面白いことを教えてやろう」  「それ、君にとって面白いことでしょう」  「そう言うなって」  コッペリアは「なぁ、なぁ」と言いながら幼子みたいに足をバタバタさせた。別に机が揺れたりはしないのだが、横でバタバタされると気が散る。  「もう分かったから、何?」  「そうこなくちゃ。今、音を立てないように扉まで行って、開けてみろ」  「何それ」  「いいから、いいから」  「嫌だよ。怪しいもん」  「そう? 警備の厳重な宮殿の中だぞ? まぁ、別にいいけど。お前は紙を黒く染めるので忙しいんだもんな」  コッペリアの言うことを無視する。反応したらすぐに彼女のペースに巻き込まれてしまう。  僕は書いていたノートを一旦しまい、算数の復習を再開した。手紙の事で茶化されたくなかったのだ。  教師が用意した問題集を、別のノートに写し解いていく。13+24=、82-45=、一桁の計算はすんなりできるようになったけど、二桁どうしは頭がこんがらがって大変だった。何度も繰り返して、すんなりとできるようにならなくては。コッペリアなんて知らない。
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