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声はどんどん近づいてきて、会話も聞き取れるようになってきた。二人の女性が話しながら歩いているようだ。
「弟も病気にかかったって……家族みんないなくなっちゃった」
一人は涙声だった。
「まだ弟は死んでないでしょう。しっかりして」
「もう無理よ。旦那様のご厚意で別館に入れてもらえたけど、父も母も三日も持たずに死んだのよ。もう、二日目なの……」
「まだ諦めては駄目よ。大国から研究者も来てくださったんだから、すぐにでも治療法が見つかるかもしれないでしょ」
声は、扉をはさんですぐ側まで来ていた。はっきりと聞こえる泣き声が、まるで僕を責め立てているように聞こえて怖かった。
病気とは、はやり病だろうか。いや、それだと三日で亡くなるという話はおかしい。僕が目を覚ましてから三か月近く経つが、お母様はそれより前から病気だった。お母様はまだ生きているではないか。
別の病気もはやっているのだろうか。……そんなこと、あるのだろうか。
「……のに……」
泣いている方の女性が、ぼそりと何かを言った。
「え?」
もう一人が訊き返す。
「フランツ様の言葉を信じなかったのに、研究者は受け入れるんですね」
心臓がドクンと強く脈打った。突然自分の名前が出て、びっくりして一瞬、呼吸を忘れる。
僕が……言った言葉?
「本当に……フランツ様の言った通りだったのではないですか」
「それは……」
もう一人が口ごもる。
「だってそうでしょう! あれ以降宮殿の中では」
「それ以上言ってはいけない!!」
耳をつんざくほどの大声だった。その後はしんと静まり返ったが、僕の心臓の音は二人に聞こえてしまうのではないかと思うほどうるさくなっていた。
「あなたは何も言わなかったし、私も何も聞かなかった。いいわね」
「……」
そのまま二人は無言になり、扉の向こう側からは足音だけが聞こえた。その足音も、すぐに聞こえなくなった。
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