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僕は体中が震え、その場から動けなくなっていた。息も荒く、手足が痺れる。
僕の言った言葉、心当たりは全くない。たぶん前のフランツが言ったんだ。何を? あんな大声で口止めするようなことって何?
……吐き気がする。
「だから言っただろう。嘘つきだって」
いつの間にか、隣に座っていたコッペリアが言う。反応する余裕すら、今の僕にはなかった。
「コッペリアは、何か知ってるの?」
「さぁ? 知ってたとしても、俺の話は信じられないんだろ」
「……」
分からない。
「そんなに知りたいんなら、俺を見つけてみるか? 推奨はしないがな」
「どういうこと?」
「秘密」
そう言うとコッペリアはすくっと立ち上がり、部屋の奥へ歩いていった。
とっさに入ったこの部屋は、明かりを点けていないので暗かった。倉庫らしく物がうずたかく積まれていて、少し離れるだけでコッペリアの姿が見えにくくなる。
姿が一瞬見えなくなっただけでも、僕はひどく心細くなった。慌ててコッペリアの後をつけると、部屋の奥にあった背の高い置棚の前で彼女は立ち止まっていた。
置棚は壁の角にはまるように置かれていた。冊子や、雑貨の入った箱などがしまわれていて、うっすらほこりが積もっている。
コッペリアは置棚を指さして言った。
「自分の部屋に帰りたかったら、この棚を横から押してみろ」
「横から? 壁があるのに?」
置棚の片端は、壁にぴったりくっついていた。
「その壁に押し込むんだよ」
「押し込む?」
「いいから、やってみろ」
コッペリアの言うことは理解できないし、怪しいとも思った。でもあの白い階段へ戻って、あの二人と鉢合わせになってしまう危険性よりも、コッペリアの言う通りにした方がまだよい気がした。
言われるままに置棚の横を押してみた。重そうだからとぐっと力を入れて押したら、驚くほど軽く置棚は動き、バランスを崩して危うく転びそうになった。
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